其の弐拾
「いゃあ~。止めて……来ないでっ!」
ベッドの上で拘束されているサーリが泣きながら必死に抵抗している。
ただ七色の球体が胸の上に乗って毛繕いをしているだけなのだが、前回の恐怖が頭の中に残っているせいで年相応の様子で泣いていた。
「やっぱりこの子はミキに似て助平さんです」
「だから飼い主はお前だろう?」
「……」
レシアは手にした羽根でポフポフと鳥の頭を叩き出した。
基本球体であるからどこが頭か分からないが、とりあえず本人的には頭を叩いている感じだ。
「ここまでやっても何も言わないんだから、やはり餌か」
「……ですね。どんなに覗いてもそれらしいことは無いですし」
それ以外のことはことごとく暴露され、サーリは本当の意味で完敗している状態だった。
ミキたちがまた羽根を使って拷問をする前に、レシアが軽くその目を見て……前回の拷問で感じたサーリの感想を口にしてしまったのだ。
曰く『気持ち良かったから、もう少し激しく……』と。
その言葉が表に出た瞬間、彼女の抵抗は止み……諦めた様子でレシアに全てを覗かれた。
隠していた秘密や思い、妄想から何まで全てを暴露された少女に追い打ちの球体だ。
顎の治療と言うか、痛みを誤魔化す力を発揮し……ナナイロはいつも通りに胸の上に鎮座していた。
「ミキ」
「どうした?」
一応拾えた情報を元に思案していたミキは、何故か少女の胸に手を伸ばす馬鹿を見た。
「ナナイロさんが『小さくて硬い』と文句を言ってます」
ガクッとサーリの頭から力が無くなり、ただ流れ落ちるように涙する。
その様子を見つめてミキは何も語らず、レシアの頭を撫でながら回収した球体を彼女の胸元にねじ込んでおいた。
「さてと……少し真面目に頭を使うかな」
「え~」
「不満を言うな」
「……はい」
ベッドの傍に椅子を運び、腰かけるミキにレシアが背後から抱き付いて来る。彼女の胸元には今押し込んだはずの球体が居るはずなのだが、特に違和感を感じないのはいつものことだ。
神格を得ている生き物らしいので、どんな不思議を起こしてもミキは驚かないことにしている。
「コイツの裏は王妃の派閥であることが分かった。王宮内で何かしらの争いでもあるんだろう……まあその辺は首を突っ込む気は無いが、問題は王妃派もシャーマンを集めている」
「大人気ですね」
「それをサラッと言えるお前が凄いな。で、コイツはレシアの存在を知り上に報告をした。結果として王妃派では無いと思われる存在から襲撃を受けたとなる。ここまでは分かるか?」
「馬鹿にしないで下さい。そこまで分かります」
凄いでしょうと言わんばかりに、レシアが頬を擦り付けて来る。
「では一つ目の問題だ。どうしてコイツが上に報告をして王宮の勢力が動く?」
「ん~。私が欲しくなったからですか?」
「理由はその通りだろう。だが王妃派の元に届いた情報が他に伝わっている。考えられるのは二つ。王妃派が王宮派と協力をしている。王妃派に王宮派に情報を流す者が居る。もっと考えられるがそれ以上説明するとお前の頭だと破裂するからな」
「ミキは良く分かってます」
イラッとしたが彼は強い意志で我慢した。
「俺としては……どっちでも良いんだな。結局全てが敵だと思えば良いんだからな」
「ミキ~。それだと悩む意味が無いですよ?」
「……お前への説明の為に言ってるんだよ」
相手の頭を捕まえてグリグリと拳で抉る。
ジタバタと暴れるレシアを尻目に、ミキはベッドの上に視線を向けた。
「で、お前に質問だ。お前が助けたシャーマンは今どこにいる?」
「……たぶん王都です」
「船に乗せられて西に運び出されている可能性は?」
「……無いとは言えません」
疲れ果てた感じでサーリは口を開く。自分がやって来たことがもしかしたら悪いことだったのかもしれないと知らされ、完全に心が折れているのだ。
「そうなるとやはりシャーマンを助けたら一時的に信用出来る人物に預けて……聖地に送りつけるか」
「どうやってですか?」
解放されたレシアは頭を押さえつつ、蹲った姿勢で彼を見る。
軽く彼女の頭を撫でながらミキはことさらも無く口を開く。
「助けたシャーマン……と言うか、その中に本物が居ればだがな。その本物にお前が抱き付いて匂いを移せば良い。お前の匂いを纏った人物があっちの方を歩いていれば、マガミが出て来るだろうさ」
「おお。流石ミキです」
頭を撫でられたことで許されたと思ったレシアがまた立ち上がり抱き付こうとする。
が、迷うことなく彼の手がその柔らかな頬を掴んで左右に引っ張る。
「いらり」
「まっこんな物か」
手を放してレシアを開放しながら、ミキは立ち上がるとベッドに転がるサーリの拘束を解いた。
「お前は好きにしろ」
「えっ?」
突然のことで少女は戸惑う。
だがミキとしてはこれ以上相手を引き回すつもりはない。何より足手まといは要らない。
「俺たちは近々ブジムバの屋敷を襲撃する。その混乱に乗じて逃げるも良し、助け出されたシャーマンと一緒に聖地に行くでも良い。好きにしろ」
「……」
何も考えられず呆然とする相手を残し、ミキはレシアを連れて部屋を出た。
(C) 甲斐八雲
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