其の拾玖
ミキたちが真剣に屋敷内の地図をどう入手するか悩んでいる間、レシアはフラリと歩き出し姿を消した。
しばらく歩いて進み……自分たちのことを見ているサーリの前に姿を現す。
突然姿を現した存在に慌てふためき、サーリは食べていたナンを喉に詰まらせ苦しむ。
「サーリさん。ブジムバって人の屋敷の地図を持ってませんか?」
「…………あります」
どうにか水で喉に仕えた物を飲み下し、サーリは懐からそれを取り出した。
簡単に書かれた屋敷内の地図だ。
「これは?」
「はい。屋敷の中に味方が居るので」
「そうですか」
ちょこんと朽ちた木の箱に座りレシアはそれを見る。
色々と書き込みがあるが、どうやらシャーマンたちは屋敷の隅にある倉庫に捕らわれているようだ。
「あの……レシア様?」
「はい?」
「レシア様は何故このような場所に?」
「はい?」
「いえ……聖地で巫女様と呼ばれるほど高貴なお方だと聞いて」
サーリはモジモジと恥ずかしそうに言葉を濁らせる。
「ん~。私も巫女って呼ばれているんですけど、巫女って何なんですかね?」
「……はい?」
あっけらかんとレシアはそんなことを言い始める。
「何か良く分からないんです。狼さんとかが私のことを『巫女、巫女』と呼ぶんで、てっきり白を持つ人のことをそう呼ぶのかな~って。でも聞いていると違うみたいだし」
首を傾げレシアは悩む。
周りがそう言っているから自分も『そんな物』とばかりに捕らえていた。だが落ち着いて考えると意味が分からない。
「ああ。確か狼さんが言ってました。巫女は『初代様』が何とかって」
「……」
そんなザックリとした説明で理解できる程の知恵をサーリは要していない。
ほとほと困り果てていると、サクッと砂を踏む音が聞こえた。
「その馬鹿に質問をするのは意味ないぞ。自分のことを理解していないんだからな」
「ガルル」
「いつまで怒っているんだ? 俺は笑顔のお前が好きなんだけどな」
「……にゃ~ん」
抱き付かれると暑いから使いたくなかった最後の手段を使い、ミキはあっさりとレシアを懐柔する。
腕に抱き付いて頬を擦り付けて来る馬鹿を無視して、ミキは彼女が持つ紙を一瞥して内容を暗記した。
「この地図の精度は?」
「……協力者が寝ぼけて無ければ」
「ならほぼこのままだと思って良いんだな」
相手に紙を差し出し、ミキは一瞬思案する。
おおよその段取りは頭の中で整った。後は決行する日を決めて実行するだけだ。
「問題が何個かある。まず助けたシャーマンをどうするか」
「……私たちが預かり保護します」
「ダメだな」
相手を睨みつけてミキはそう断言する。
怒った様子でこちらを見て来る彼女に、軽く欠伸をしながら彼はレシアの懐に手をやる。
「あん……ダメです」
「黙ってろ」
「ぶ~」
膨れた彼女を無視してミキはサーリを見る。
「一つだけ確認をし忘れていた。否、違う。敢えて聞いてなかったんだが……」
クスッと笑いミキはレシアの懐からそれを引き抜く。
「お前たちの立ち位置はどこだ? 西か? それとも王宮か?」
悪巧みをする都合、目立たない場所を求めると自然と路地裏になる。
結果として襲撃を受けても騒ぎにならない場所であるが、言い換えれば襲撃を受けやすい場所にもなる。
案の定建物の屋根から男たちが飛び降りて来た。
だがミキは焦らず掴んでいた物を宙に放る。
膨らみ体積を増やした七色の球体に止められ、男たちは降りられなくなった。
「もう一度気絶するしかないな」
「えっ!」
突然のことで慌てていたサーリの顎先を十手で打ち抜き意識を飛ばす。
ミキは彼女を抱えるとその場から素早く撤収していた。
「ミキは酷い人です」
「何がだ?」
「ナナイロさんを見捨てました」
「お前が呼べば飛んで来るだろう? 『ご飯ですよ~』と呼んでみろ」
「そんなことで来るとは思いません」
串焼きをパクパク食べながらレシアは言われた通り呼んでみる。
するとパタパタと小さな羽を動かし七色の球体が飛んで来た。
「何か言うことは?」
「む~」
真っ直ぐ飛んで来た七色の球体は、迷わず彼女の胸元に飛び込み顔らしき部分を相手に向けて小さな嘴をピクピク動かす。
とりあえずレシアは串焼きの先端をその球体に向け突き刺した。
「餌を与えているようには見えんな」
事実、球体に向かい串を刺している残酷な行為にしか見えない。
だがモグモグと嘴を動かすナナイロは、串ごと全てを飲み込んで行った。
「それでミキ? あの人たちは何なんですか?」
「ん? たぶん王都の手の者だろうな」
「ふ~ん。つまりこのサーリさんの仲間ですか?」
彼に背負われ目を回している相手を見る。また顎の先が赤黒くなっていた。
「……違うだろうな」
「はい?」
彼の言葉にレシアは視線を動かす。
「コイツはたぶん泳がされているんだ。係わりを持ったシャーマンを狩る為の餌だな」
「ふ~ん。つまり私たちは釣られたんですか?」
「そう言うこと」
「む~」
頬を膨らませて怒るレイアは彼の横顔を見つめる。
何となく楽しそうにしている様子が少し不思議だった。
「どこかミキが嬉しそうです」
「そうか?」
「はい」
素直に自分が思ったことを口にすると、彼はクスッと笑った。
「そうかも知れないな」
「はい?」
「俺は現状を楽しんでいる……つまりそう言うことだろう」
彼はまた笑った。
(C) 甲斐八雲
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