4.2.5 光と闇の狭間

――王都 宮殿 晩餐会の会場


 エリスの発言を聞くや否や、フランソワ王子は突然笑い出した

「あはは、面白いことを言うね。そんな度肝を抜く発言をこの場でするなんて、さすがは僕の妹だ――あははは、腹が痛い」


 エリスはフランソワ王子を睨みつけると不満げに否定する。

「兄上、私は本気です。あなたのような子供じみた悪戯はしません」


 国王が二人の会話を遮るように口を挟んだ。

「これ、フランソワ、自重しなさい。しかし、欲しいといわれてもな……アルビオン大佐は他国の者ゆえ……そのような無理難題をシュナイト国王にお願いすることなど到底できぬ」


「私が彼の元へ嫁いでも構いませぬ」


 エリスの言葉に国王は驚いたように目を見開く。

「それこそ許すことはできない。これまでの両国の歴史を考えれば容易に想像がつくではないか。エリスよ、わしをこれ以上困らせないでおくれ」


 国王の言うことは正しい。不可侵条約など何年持つかわからない。そもそも、王女が連れ去られてできた王国の軍人に王女を嫁がせるなど、この国の貴族たちが許すはずがない。


 彼女もそのことを十分に理解しているはずだ。酒に酔い駄々をこねているだけとは思えないが……俺はちらりと彼女を横顔を見た――次の瞬間、


「許されないなら、ここで命を絶ちます」

エリスはそう言い放つと小刀を取り出し自らの喉へ切りつける。


 俺は咄嗟にエリスの手を抑えて小刀を奪い取る。彼女は手を震わせながら俺に抱き着き、泣き始めた。


 国王は動揺した様子でエリスを懸命になだめる。

「エリス、落ち着きなさい。彼以外であれば、なんでもお前の願いを聞き届けてやろう。そうだ、国中の貴族の男性を王城に招き、好きな者を選ぶとよい」


「この願いが叶わぬなら、結婚は致しません……その代わり、彼の住む場所の近くに私の領地をお与えください。せめてこの身だけでも彼の近くにありたいと思います」


 エリスの涙ながらの訴えを聞くと、国王はしばらく黙り込んだ後、重い口を開く。

「……うむ、領地の件は約束しよう。結婚は無理強いはしないが、気が変わればいつでも話しておくれ」


 エリスは俺の腕の中で国王の言葉に頷いた。固く結んだ口元が小刻みに揺れている――感激の余りというより、笑いだしそうになるのを必死に堪えているかのようだ。


 フランソワ王子は薄ら笑いを浮かべながらエリスに話かける。

「さて、これで終わりかな? であれば、僕からアルビオン大佐に話したいことがあるんだが……エリス、彼を貸してくれないか?」


「いえ、これから彼と別れの挨拶をしなくてはなりません。失礼いたします」

エリスはそう言うと俺の手を引き出口へと走り出した。

 

――王都 宮殿 部屋


 エリスは晩餐会の会場を出た。そして、俺の手を固く握りしめたまま廊下を歩き、とある一室へと俺を連れ込む。


 俺は部屋を見渡しながらエリスの手を振りほどく。

「貴女の父上は随分と聞き分けが良い。一度挨拶した程度の男性を好きになるなど俺なら容易に受け入れられないがな」


 エリスは窓際の机に腰かけると声を抑えて笑い出す。

「くくく、父上は私の気まぐれに慣れているからな。それにしても、あそこまで狼狽えるとは……今思い出しても可笑しくなる」


 ひとしきり笑うと胸元から小さな銀色のボトルを取り出し蓋を開けて口に含む。俺は思わずエリスに近づき、彼女の腕を掴んだ。

「いい加減にしておけ。先ほどの茶番が何を意図するのか分からないが……これ以上の演技は不要だろう」


「バチンッ」

エリスが俺の頬を叩いた。


 俺は呆気に取られ、手を離す――次の瞬間、エリスは俺の顔を引き寄せ唇を合わせてきた。差し込まれた彼女の舌はピリリと辛く、喉が燃えるように熱くなる。


 エリスはドレスのスリットを破り、机に深く腰掛けると股を開いた。

「さあ、半年に一度の逢瀬を楽しみましょう」


 露わになった白い太腿を見るとごくりと俺の喉がなる。俺は白い太腿に手を這わせながら、魔法陣が赤く輝く彼女の胸の谷間に顔を埋めた。


◇ ◇ ◇ ◇


 ドレスの胸元をはぎ取り、乳首を口に含み舌で転がす。

 エリスは俺の頭を抱きしめて喘ぎ声をあげた。

「あんっ、はあ……私の乳は詰め物なしの本物だろう? 存分に味わうがいい」


 エリスの喘ぎ声に合わせ、乳首は固くなる。

 口を離すと、桃色に紅潮したそれは弾けるようにピンと天を衝いた。


 エリスが俺の顔を掴み、再び口を合わせ、舌を絡ませる。

「もう、気が狂いそうよ……早く挿れなさ――ぁああん、あん、ああっ」


 エリスが命令をするより一瞬早く、怒張した男根を彼女の膣内ナカへと挿入する――ぬめりのあるひだに包まれ、快感が全身を駆け巡る。


 俺は快感を貪るようにエリスの両足を肩にかけ、腰を激しく深く打ちつける。彼女は喘ぎ声を上げながら、背をのけぞらせ、腕を机に広げた――机の上に置かれたペン立てとインク瓶が音を立てて床に落ちる。


 エリスは幾度となく絶頂を迎えた。留め具が外れた髪は乱れ、鎖骨のくぼみに汗が溜まりこぼれる。彼女は恍惚とした表情で俺を見つめながら喘ぎ続けた。


「……そろそろ俺も絶頂いきそうだ」


 俺は腰を引き、射精する前に抜こうとした。すると、エリスは両足を肩から外し腰に回すと同時に上半身を起こして俺に抱き着いた。


「うう、ああ」

俺の男根はエリスの膣に締め付けられながら彼女の膣内ナカで果てた。


◇ ◇ ◇ ◇


 俺とエリスは息を弾ませながら机の上に重なり合う――二人の息遣いのみが部屋に響き渡る。


 俺は息を整えながら問いかける。

「なぜ外に出すのを止めた? 不可侵条約を結んだとは言え、俺とあなたは敵同士だ……生まれて来る子供が不憫だと思わないのか?」


 名残惜しそうに俺の首筋に流れる汗を舌でなめていたエリスは意地悪そうに笑う。

「この部屋は父上の私室だ。お前の精液が床に落ちでもしたら、優秀な番犬が匂いを嗅ぎつけ、お前の股に食らいつくぞ。どうだ? 私は気が利くだろう」


 エリスにはぐらかされ俺はむきになる。

「冗談をいうのは止せ。まだ酒が抜けていない……のか?」


 言い終わらぬ内にエリスは俺の頭を抱きしめると胸に押し付けた。

「私は兄上が苦手だ。彼の明るい性格と分け隔てなく接する姿はまさに光だ。劣等感に苛まれて闇に生きてきた私には彼は眩しいのだ。しかし、お前は違う――大胆な行動で光を放ちながらも、些細なことを気にして闇に身を潜める。まるで、光と闇の狭間に漂う赤い太陽のようだ……そんなお前が愛しくて堪らない」


 エリスの全身から溢れる愛情に振り払うかのように、彼女を突き放す。

「……俺は貴女の愛へ応えることはできない。茨の道を歩くことになるが覚悟はできているのか?」


 俺の言葉を聞くとエリスは頷いた。

「今日の父上への宣言が私の覚悟だ」


「……そうか……ならば再契約を結んでやろう」

俺はそう言うとエリスの胸元の魔方陣に手を触れようとした。


エリスは俺の手を遮り耳元で囁いた。

「まだ、逢瀬は始まったばかりよ」

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