4.1.18 黒い石柱/王との謁見
――王国歴 302年 中夏 アニュゴン領 主都
――自治領館 ザエラ執務室
浮遊島から戻ると地下迷宮の女神から鑑定を受けた。
ラファエルとルシフェルも一緒だ。
「これはすごい……火魔法と水魔法が追加されている」
俺は鑑定書に記載された火魔法と水魔法を目にして驚いた。
これまでスキルにないため、魔法書でしか習得できないでいた魔法だ。
持て余していた魔術紋様‟炎舞”も成長するかもしれない。
他に追加もしく成長したスキルを確認する。
・飛行Ⅰ
・竜の統制Ⅰ
・魔法耐性Ⅰ
・王の威厳Ⅲ
‟竜の統制”は、ラファエルとルシフェルが話していた竜を従える能力のことだろう。‟魔法耐性”と‟飛行”は、竜の能力を譲り受けたと思われる。しかし、‟飛行”は発動方法がわからない。後で二人に聞いてみるとしよう。
‟人族・神種”の種族を与えられた際に得た‟王の威厳”は習熟度が上昇した。これは、ラファエルとルシフェルを同族に引き入れ、竜と亜竜人を眷族に加えたためと考えられる。ただ、習熟度が何と関連しているのか不明なため断言はできないが。
ラファエルとルシフェルの鑑定書は一部だけ見ることができた。人種は俺と同じ、魔術紋様はラファエルが‟炎雷魔法”、ルシフェルが‟氷雷魔法”だ。それ以上は隠されて拒まれた……恥ずかしいからだそうだ。
さてと……俺は鑑定書を引き出しにしまい、代わりに黒い石を取り出した。
「この黒い石が女神の試練に必要な資源とはな」
俺は手のひらで黒い石を転がしながら呟く。
◇ ◇ ◇ ◇
地下迷宮の女神とは、鑑定に加え、種族の試練についても話をした。
独自の資源を確保するよう俺に命じていた件だ。
まず材料として特殊な鉱石が必要と言われていた。しかし、それ以上の情報はなく、俺は土人が採掘した全種類の鉱石を女神に見せた。
『これよ』
女神は迷わず黒い鉱石を指さした。土人の倉庫に端に置かれていた岩だ。
そして、鑑定用の紙に、次々と設計図を焼き込んでいく。
『この鉱石を砕いて溶かし正方形のブロックを沢山作りなさい。そして、各面に溝を掘り高純度のミスリルを流し込むの。溝の形はそれぞれ異なるから注意するように。その後、
気づくと目の前に設計図が積み上げられていた。
「歪みないブロックの鋳造、高純度ミスリルの製錬、そして精密に溝を掘り込りミスリルを流し込む鍛冶……高度な技術が求められますね」
俺は設計図に目を通しながら唸るように呟く。
『できないのかしら?』
「いえ、仲間に相談して作り上げてみせます」
俺は設計図の束を抱えて女神に自信に満ちた表情で答えた。
◇ ◇ ◇ ◇
地下迷宮から地上に戻るとすぐさま秘書と共にレーヴェの一族の住居へと足を運んだ。このような複雑な金属の加工ができるのは、ドフォルフの血と知識を受け継ぐ彼らしか思いつかない。
彼らに設計図と黒い鉱石を渡し、女神から聞いた内容を伝える。俺の話を聞き終えると彼らは顔を紅潮させ設計図を噛り付くように見始めた。そして、しばらく別室で議論を続けた後、ぜひ自分達で作成したいと俺に申し出た。
「出来上がるのが楽しみだな……もうこんな時間か、出かける用意をしなければ」
黒い鉱石を引き出しにしまうと俺は立ち上がり鞄に荷物を積める。
国王から密会の要望を受け、これから王都へ向かうのだ。
――王都 密会の場
「アルビオン大佐、久しぶりだな」
「国王様、ご無沙汰しております」
シュナイト国王はくつろいだ様子で俺を出迎えた。
手で椅子に座るように促され、お辞儀をして椅子に向かう。
「この度はご結婚おめでとうございます」
「……ああ、そうだな」
国王は浮かない表情を見せて顔を逸らした。
妃は彼の後ろ盾となるロックフェラー将爵家のアルティナ中将だ。
大柄で男勝りの肉体を持つ彼女の姿を想いだした。
「ところで其方も結婚したそうではないか。相手はブルーバーグ少佐と聞いたぞ。先の戦役で其方の傍らにいた美人の魔人だな、俺も覚えている。やり手だな、其方は」
「やり手といいますか……、幼馴染でございます。長年の親友が妻になり、まだ、十分に実感がないのが正直なところです」
国王に砕けた口調でなじられ、俺は恥ずかしそうに弁解した。
「……其方が羨ましい」
国王はぼそりと呟いた。
「さて、要件に移るとしよう。内密の話が……この度、ガルミット王国と不可侵条約を結ぶことが正式に決定した。来月に相手国の主都にて調印式を行う。その場に其方も参列してもらえないだろうか?」
「ご勅命であれば喜んで参加いたします。要望があれば何なりとお命じください」
参列を命じるだけであれば、書状でも良いはずだ。
密会と言う形で招集しているということは、さらに要望があるのだろう。
「相手国のフランソワ王子が其方との会談を希望されてな。また、来訪の際に腕利きの部下を数名連れて来て欲しいと言われている。種族は問わないそうだ」
そういば、前回の晩餐会でフランソワ王子が相談したいことがあると話していたな……直後に襲撃されて、聞けずじまいだったが。
「畏まりました。私の部下を同伴いたします」
「よろしく頼む。其方は判断が早くて頼もしいな。元老院の奴らは俺が何を指示しても、これまでの慣例やら有力貴族の利権やら並べたてて、何一つ話が進まない。其方の自治領も私の直轄領としたかったのだが、元老院に一蹴されてしまった」
国王は日頃の鬱憤を晴らすかのように愚痴をこぼし始めた。
国王とは孤独な者だな……俺は彼の愚痴を聞きながらそう感じた。
◇ ◇ ◇ ◇
「すまない、俺の愚痴につき合わせて。しかし、いい憂さ晴らしができた」
「いえ、私で良ければ何時でもお付き合いしますのでお呼びください」
良い頃合いだ、俺は退出しようと立ち上がる。
「そういえば、
「今年の春から王都にて暮らしております。始めは人の多さに驚いたそうですが、最近は学校にも慣れ、同郷の者と一緒に楽しく過ごしていると手紙が来ています」
「それは何よりだな。彼女であれば良い医者になるだろう」
久しぶりにティアラの顔でも見て帰るか、俺はそう考えながら、国王に別れの挨拶をして部屋を退出した。
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