4.1.17 夏の花嫁(ベロニカ)

――王国歴 302年 初夏 アニュゴン領 主都

――天空の城(浮遊島)


 俺の隣で二人のベロニカが光に包まれて横たわる。

 

「はあ、はあ、なんだか俺も変だ……魔石が熱い」


 二人のベロニカの儀式が終わると俺の身体に異変が起きた。

 全身から光が放出され、魔石が熱く、砕けてしまうような激痛が走る。

 俺はその痛みに耐えながら意識が遠のくのを感じた。


◇ ◇ ◇ ◇


 気付くと太陽が西に移動していた――意識を喪失してから数時間過ぎたようだ。


「ザエラ様、気が付かれましたか?」


 両脇に肌を寄せ合い寝ている女性が二人、同時に声を掛けてきた。

 普通に考えればベロニカなのだろうが……外見が違いすぎる。


 赤みを帯びた黄色の髪に王冠のような短い二本の角、柔らかく張りのある肌、ツンと上を向いた豊かな胸……切れ長の瞳と唇のみが微かに二人の面影を感じさせる。


「……ベロニカなのか?」

「はい、成体へと変態しましたが……やはりザエラ様に


 ベロニカは自らの身体を見ながらため息をついた。この儀式は第二の受胎と呼ばれ、竜・幼体ドラゴン・ジュベナイルが相手と交わることで成体へと変態する行為だと彼女は説明を始めた。成体の種族は相手との力関係に依存する。今回は俺の力が強く、二人は俺と同じ種族へと変態したそうだ。


「残念だけど、予想通りということか?」

「いえ、強い雄と番えて幸運です……ただ、鱗がない肌が見慣れなくて」


 二人は恥ずかしそうに俺に肌を密着してきた――俺の下半身が元気になる。


「鱗のない肌はなめらかで温かみがある。そうだ、俺たちはもう同じ種族だな」


 俺はまだ絶頂していないことに気づき、二人を仰向けに寝かせた。

 そして、交互に唇を交わしながら首筋、乳首、下腹部へと丁寧に愛撫する。

 新しい身体は感度が高いのか、激しい喘ぎ声と共に秘所から愛液が滴り落ちた。


「ザエラ様、いえ、我が王よ。思う存分、我らを愛でてください」


 俺は頷くと二人を抱きしめ、快楽の園へと踏み込んだ。


◇ ◇ ◇ ◇


 再び両腕にベロニカを抱き、行為の余韻に浸る。


「二度の処女ヴァージンを瞬く間に奪われてしまいました」

彼女は甘えた声で俺の腕をつねる。


「それにしては嬉しそうだな。ふふ、まあいい。何か望みはあるか?」

「王の妃にしていただけないでしょうか? 結婚指輪を見せてください」

その言葉を待ちわびていたように即答し、三重のリングを興味深そうに見つめる。


 結婚式の後、師匠に結婚指輪の意味を聞いて絶句したことを思い出した。


 三重の環は人族・亜人・魔人を、各環に彫り込まれた十二の台座は三個毎に春夏秋冬を意味する。秋の台座の赤いダイヤが埋め込まれている。これは、秋はサーシャが俺の妻であることを示している。三重の環の秋の台座にすべてダイヤが埋め込まれているのは、秋を独占したいがためとのことだ。


「私たちは王を独占するほど強欲ではありません。夏のひと時で構いませんわ」


 二人が何か唱えると人族の環の夏の台座に炎が宿り、蒼色の氷がそれを包む。まるで蒼色のダイヤの中に火が灯されているようだ。


「ところで、なぜ、俺を王と呼ぶ?」


 ベロニカは少し間をおいて喋り始めた。


「私たちはザエラ様の種族へと変態しました。貴方の力が私たちより勝ることを意味します。さらに、この儀式は互いに能力を分け与えます。ザエラ様は竜を従える能力を得たように感じられますの」


 先ほどの身体の痛みの原因はそれか……俺は納得した。

 竜の上位種族で最も力が強い者、つまり俺が王に相応しいということだな。

 天空の城のみ、王として振る舞うのも一興だろう。


「なるほど、では、ベロニカは俺から何を得たんだ?」

「多すぎてすべては分かりませんが……少なくとも魔術紋様を得ました」


 二人は起き上がり後ろを向く――背中には魔術紋様が刻まれているのが薄らと見える。俺から得た‟雷鳴魔法”と、それぞれが待つ‟原初の炎”と‟原初の水”が交じり合うことでできた魔力回路だ、と彼女たちは語る。


 俺は二人の背中に魔力を注ぎ、魔術紋様を発光させた。

 彼女たちは身をよじる。出来立ての魔術回路なので痛いのかもしれない。


「綺麗な魔術紋様だ。ところで翼は消えたのか?」


 背中から翼が跡形もなく消えていた。

 刃を重ねたような翼を気に入っていたのだが……残念だ。


「いえ、翼は生体防具として着脱可能になりましたの。こんな風に」


 二人の背中に翼が浮かびあがる。

 以前の翼より一回り大きく圧倒される。


「我が王よ、もう一つお願いがあります。我らに名をお与えください」


 翼に見惚れている俺は我に返る。

 ベロニカのままというのは可愛そうだな……どのような名前にしたものか。

 俺は二人を見つめながら考え込む。

 

「紅い瞳のお前はラファエル、蒼い瞳のお前はルシフェルだ」


 二人は嬉しそうに自らの名を名乗る。

 最後は直感で決めたが嬉しそうで何よりだ。


「湯殿を用意しております。一緒にいかがですか?」


 彼女たちは起き上がり両手を上げて背伸びをし、俺に手を差し出す。

 俺は二人の手を握り立ち上がると王座が目に入る。

 その周りに漂う光り輝く魂に俺は気づいた。


「座られてはいかがですか?」

「……後でいいよ。先に湯浴みに行こう」

その魂を横目で追いながら俺は答えた。


◇ ◇ ◇ ◇


 後日、デュリオンを浮遊島へ招き、ラファエルとルシフェルを引き合わせた。

 彼は彼女たちと飛竜を見ると涙を流して喜び、眷族として仕えることを申し出た。

 なお、話が面倒なので俺が天空の城の王であることは伏せている。


 二人は亜竜人の来訪を歓迎し、浮遊島に移住し、開拓するように命じた。

 こうしてすべての移住者の受け入れ先が決定した。

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