4.1.15 天空の城(1)
――王国歴 302年 初夏 アニュゴン領 主都
――自治領館 屋根の上
俺は自治領館の屋根の上でベロニカと待ち合わせをしていた。
「いい天気だ、このまま寝てしまいたい」
青空に向けて背伸びをした後、仰向けになり、両腕を組んで頭をのせた。そして、城壁の外にある移住者の仮住まいから立ち込める土煙に目を遣る――新天地を目指して主都から離れる一団が移動を開始したのだ。
俺は目を瞑り太陽の光を肌に感じながらこれまでの経緯を振り返る。
――秘書との会話
新たな集合住宅を見学した後、秘書から今後の予定について聞かされた。
秘書の見積によると予算を増やしても冬までに実証実験の一棟が完成できる程度とのことだ。既存の住居の建築と合わせても最大二万人の受け入れが限界らしい。ただし、動力炉の管を都市の三割に張り巡らせることで薪と水不足は発生しないと彼女は断言していた。
移住者全員を主都に収容できないのは薄々感じていた。しかし、最大受け入れ人数を試算し、薪と水不足が回避を検討するとは……やはり彼女は一枚上手だ。
俺は移住者の各種族における代表者を呼び、今後について相談することにした。
――移住者の種族代表との会話
移住者は以下のように多種多様な種族から成る。
他にも一千人未満の少数種族がいるが省略している。
一万人 犬族(獣人)
四千人 猫族(獣人)
四千人 狼族(獣人)
四千人 狐族(獣人)
四千人 猿族(獣人)
一千人 豹族(獣人)
一千人 犀族(獣人)
一千人 熊族(獣人)
五千人 黒エルフ
五千人 鬼人
五千人
五千人
一千人
圧倒的に多いのは獣人だ――ガルミット王国から自由都市同盟を経て、奴隷として東部に連れてこられた者が多いと聞く。獣人は魔人に属するが、一般的に知能が高く人族に従順なため労働力として重宝されているらしい。
蛇女はアルケノイドと同じく女性のみの種族。鬼人並みに体格が良く足の代わりに太い尾で地面を這う。力持ちかつ不安定な足場でも移動できるため、採掘や建築現場における荷物運びが得意と聞く。
亜竜人は亜人ではなく魔人に属する。希少種なため詳細は不明だが、
種族代表者たちに加え、黒エルフの集落代表(ディアナ)、土人の砦代表、ソニア公女(に宿る魔人)が副将軍を務める魔族連邦国に属する将国の診療所担当(ドワルゴ)を呼び寄せて今後について相談を始めた。
◇ ◇ ◇ ◇
まず俺は現状を説明し、冬に向けた準備について相談したい旨、伝えた。
「誰か質問があるか?」
種族代表者たちは俺の呼びかけに答えることなく沈黙を続ける――妙な緊張感が辺りに漂う。彼らと話すのはこれが始めてだ……秘書とカロルも事務手続き以外で関りがない。食事担当で交流のあるシルバとヴェルナを呼んでいないことを後悔した。
「皆さん、そう固くならずに。領主代行様、私に調整をお任せいただけませんか?」
亜竜人の代表者が穏やかな表情で調整役に名乗りを上げる。俺が頷くと、彼はまず各種族代表に要望を話すように促した。ようやく、彼らは重たい口を開き始めた。
彼らは、冬に向けた準備ではなく、違約金の支払いについて心配していた。東部の領地から追い出される際に一方的に奴隷契約を解除された。しかし、書類上は彼らが奴隷を拒否したことにされ、違約金を押し付けられていたのだ……しかも高利息で。
「東部は西部と異なり、魔人の多くは奴隷なのだな……皆さんの心配は理解したが、我々がその負担をすべて肩代わりすることはできない。しかし、違約金が支払えるように仕事の斡旋は約束しよう」
俺は自信に満ちた声で彼らの不安を取り除いた――つもりだが、彼らの反応は薄い……亜竜人が俺に近寄ると耳元で囁いた。
「アルビオン大佐、それでは不十分です。高利息が問題なのです。私に策がありますので、利息の負担を約束してください」
亜竜人の助言に従い利息の負担を約束すると彼らは拍手して喜んだ。俺に近づき握手を求める者さえいる。場の緊張感が急激に和らぐのを感じた。
「‟自由の新天地”に相応しい決断です。ありがとうございます。では、ここからは冬に向けた準備についての相談に移りましょう」
まずは、ディアナたちが各集落の説明を行い、移住希望者を募る。なお、ドワルゴが運営する診療所については、ソニア公女(に宿る魔人)から街へ発展させるよう、強引に命じられた。資金、資材、食料はすべて彼らの負担だが、不足している人手を募集したいそうだ。
一通り説明が終わると、各種族の代表者が希望する移住先と交渉を行う。三時間程で調整は完了した。
犬族と黒エルフは黒エルフの集落へ合流する。ただし、今の集落に全員を受け入れられないため、犬族(五千)と黒エルフ(五千)は西部の森で新しく集落を立ち上げる。なお、犬族と黒エルフとは古代から親交にあり、人族以上に仲が良い。
土人(五千)と蛇女(五千)は土人の砦へ合流する。住居として使える採掘の穴があるので、全員受け入れ可能とのことだ。ちなみに、蛇女は本来、洞窟を住処にし、土人とは共生関係にある。蛇女が鉱石の運搬と採掘場に現れる
犀族(一千)、熊族(一千)、鬼人(五千)はドワルゴに雇われた。診療所を街に発展させるために労働者が不足しており、体力のある種族が選ばれたようだ。
残り(一万七千)は主都で受け入れる。猫族と狐族は侍女、給仕人、演奏家として需要が高く都会暮らしに困らない。また、豹族と狼族は高い戦闘力を生かし、冒険者、軍人、警備兵となることを望んでいる。そして、猿族は知能が高く計算を得意とするため、商会の経理など引く手あまただ。秘書は自治領職員に雇いたいと目を光らせていた。
◇ ◇ ◇ ◇
亜竜人の代表とは別日に二人だけで会話した。
名はデュリオン、とある領地で長年、対外交渉(渉外)を担当していたそうだ。先日の手腕に感動し、我が自治領でも渉外を担当して欲しいとお願いしたところ快諾してくれた。ゆくゆくは、宰相として俺に助言してくれることを期待している。
「アルビオン大佐、我々は東部からの移住者ではありません。竜の意思に導かれ、この地に集いました。貴方様が飛竜に騎乗していたことは聞いております。お目通りさせていただけないでしょうか?」
会話がひと段落するとデュリオンから突然、竜に会いたいを相談を受けた。
彼の話によると、竜の住処である浮遊島がこの地の上空で停止したため、眷族として仕えるべく様々な場所から集合したとのことだ。
しかし、浮遊島は戦場から王都へ向かう途中に見かけたが、この地の上空にあるとは初耳だ。まずは、ベロニカに聞いてからだと考え、彼へは後日回答すると答えた。
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