3.3.50 巨人(2)
――王国歴 301年 晩春 中央軍 援軍 vs フランソワ陣営
――第一王女陣営
「敵中央に、重装騎兵六千、高位神官三千、魔獣調教師四千を確認しました」
飛竜による偵察から帰還したカロルは敵中央の陣容を第一王女へ報告する。
「ザエラ副大将、この戦況をどう判断する?」
第一王女はザエラに意見を求める。
「兵力は我々三陣営が優位ですが、アデル王子が捕縛されているため安易に敵に攻め込むべきではありません。アデル王子が殺害された場合は総力戦になりますので、出撃の準備だけ整えておけばよいかと思われます」
「シュナイト陣営は巨人に攻め込まれて損害が出ていると聞く。わらわとしては彼に借りを作りたいところだが、何ぞ手はないかの?」
ザエラはしばらく考えた後、口を開いた。
「私の
「うむ、捕縛であればアデル王子が殺される
こうして、ザエラとカロルはベロニカと共に飛竜に騎乗し、敵陣へと飛び立つ。
――シュナイト陣営
「前衛後退だ。巨人から離れろ」
伝令により指示が伝わると兵士たちは我先にと退却を始める。彼らの流れに逆らいながらオルガ隊は前線まで疾走していた。
オルガはアルティナ少将とシュナイト公に出陣を申し出た。かねてから魔人の活躍に期待していたシュナイト公は喜んで許可を与えた。
「もうすぐ、敵と接触する。巨人化して思う存分にあばれろ」
オルガが叫ぶと、味方の兵士の流れが途切れ、前方に巨人が現れた。
「いくぞ、お前ら。俺たちの力を存分に見せつけてやるぞ」
キリル、イゴールの激に、
◇ ◇ ◇ ◇
「凄まじい光景だな。人族の戦争の範疇を超えている」
「……そうでございますね」
シュナイト公とアルティナ少将は前線で繰り広げられる巨人同士の戦いに圧倒されていた。
氷結の巨人は、氷の棍棒を生成し、振り回し始めた。神巨人は六本の腕で辛うじて防ぐが、巨碧人は打ち飛ばされる。
「頭数は多いが押されているな。格闘技を教えておくべきだったか。……どうしたオルガ、腹でも痛いのか?」
ジレンはお腹を丸めてうずくまるオルガに声をかける。
「ち、違う……背中が熱い」
そう言うとオルガの背中の魔力回路が光り始めた。
オルガの魔術回路の発光に合わせるように、巨人の胸に刻まれた紋様が光る。そして紋様が、戦斧、斧槍、棍棒、長剣と様々な種類の武器に姿を変える。
キリル、イゴールと巨碧人たちはそれを掴むと、氷結の巨人へ反撃を開始した。
――ザキム中佐 魔獣調教師部隊
「フランソワ様、わざわざお越しいただきありがとうございます」
「戦況はどうだ?」
「壁の先に足場を作りました。今のところ敵兵の動きに異常はありません」
「知能の低い魔人も使いようだな。それでは、私は奇襲に向けた準備を進めよう」
ザキム中佐からの報告を受けて、フランソワ王子が席を立とうとした。そのとき、部下が彼女へ近づき耳打ちをすると、彼女の表情が曇る。
「フランソワ様、急報でございます。敵も巨人を繰り出しました。種族は不明ですが、数に勝る相手に我らの巨人は全滅したとのことです。……申し訳ございません」
「そうか……、それは残念だ」
フランソワ王子は剣を抜くとザキム中佐へと振り下ろす。
「ガキン」、フランソワ王子の剣が宙で止まると刀を構えた赤毛の男が現れた。
「敵の刺客か……ザキム、後ろにも一人いる。気を付けろ」
フランソワ王子の呼びかけと同時に、ザキム中佐は黒い影に包まれ、連れ去れれる。
《カロル、そいつを連れて先に戻れ。俺はこいつをもう暫く引き付ける》
《了解。兄さん、無理しないで》
「ザキムを捕縛してどうする気だ。答えろ」
フランソワ王子の素早い剣筋を長巻で受け流しつつ、距離を取る。騒ぎに気付いた敵兵が集まるとザエラは瞬く間に囲まれた。
「赤い髪に赤い瞳とは珍しい。名を名乗れ」
「ザエラ・アルビオン、階級は中佐だ」
「敵陣に侵入するとは良い度胸だ。ザキムをどうするつもりだ」
「彼女に危害を加えるつもりはございません。彼女を捕らえたのは、これ以上の無益な戦闘を止めるためです。……既にそちらの巨人は全滅したそうですが」
そう言うとザエラはにやりと笑う。そして、飛び上がると空へと上昇する。あらかじめ糸を飛竜に結び付けていたのだ。
「講和条約をお待ちしています」
悔しそうに睨みつけるフランソワ王子を見下ろしながら、ザエラは叫んだ。
◇ ◇ ◇ ◇
その日の夕刻にフランソワ王子から講和条約の使者が届いた。講和条約には、捕虜を交換することによる戦争の終結が提案されていた。
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