3.3.51 指輪の疑惑
――王国歴 301年 晩春 貴族連合討伐軍 第一王女陣営
使者が到着してから数日間、講和の調整が行われていた。しかし、国王と禁軍上層部のみが対応し、その内容は極秘とされていた。
しかし、先刻、第一王女は国王に緊急招集され、講和の決定を伝えられた。講和条件を聞かせたいと、彼女はザエラを呼び出した。
「シャーロット様、講和の内容はどのようになりましたか?」
「総じて我々が有利に戦争を進めたのに、講和の内容は酷いものだわ。ミハエラ中将を始めとする全捕虜の解放、北部遠征軍も含めた全軍の撤退、そしてザルトビア要塞の返上……土地だけでなく賠償金もないのよ。あの人はアデル王子を取り戻すためなら国益なんてどうでもいいのよ」
第一王女は肩を震わせながら喋る。そして、息苦しそうに咳をする。ザエラは彼女の後ろに回ると丁寧に背中をさすり始めた。
「ありがとう、もう、大丈夫よ。明後日に講和の締結に合わせて捕虜の引き渡しが行われるわ。こちらで管理している捕虜の返還準備をお願い」
「畏まりました。ところで、氷結の巨人の遺体引き取りはいかがでしたか?」
「シュナイト公から了承は取り付けたわ。自由にどうぞとのことよ」
「ありがとうございます。……キュトラさんが領地に戻られてから部屋が静かになりました。話相手がいなくて寂しくありませんか?お元気がないように感じます」
中央での決戦から戻ると、キュトラは体調不良を理由に伯爵領へと帰還していた。別れの挨拶もなく、ザエラは残念に感じていた。
「そうね、彼女がいないとつまらないわ。それに、最近は体が重いの……呪いが強化されたみたい。これからは、毎晩、魔力循環の施術をお願いしてもいいかしら?」
「もちろん大丈夫ですが、呪いが強まるというのは気になります。身辺警護にカロルと騎士団の精鋭を配置いたしましょう」
しばらく、第一王女から容体を聞いた後、ザエラは部屋から退出した。
――第一王女陣営の捕虜施設(ミハエラの部屋)
ザエラはミハエラに面会を求めた。看守の見守る中、二人は握手をして対面に座る。握手の際にミハエラに渡した魔道具でザエラは念話を試みる。
《ミハエラ、聞こえるか?》
ザエラは念話でミハエルに魔道具の使い方を説明する。
《よく聞こえるよ。僕の声は君に届いているかい?》
《俺は大丈夫だ。カロル、そちらはどうだ?》
《カロルです。こちらは全員、二人の声が聞こえています》
二人に加え、近くの宿舎に集合しているオルガ、カロル、ミーシャ、サーシャの四人が念話に参加している。
最初にザエラから、講和が決まり、捕虜を敵軍へ引き渡すことを伝えた。
《……そうか、ようやく講和が締結されるのか。それで本題は……僕の言われなき罪についてかい?それを話すために皆が参加しているんだよね?》
ザエラは溜息を軽くつくと意を決して話始めた。
《オルガとカロルは、辺境伯家当主から指輪を渡されたことを覚えているか?》
《ああ、もちろんだ。首輪に通して身に付けてる。カロルも同じだ》
オルガが答える。
《その指輪には致死の呪いがかけられていた。俺と師匠で確認したのだから間違いない。俺は犯人をミハエラだと考えている》
ザエラの言葉にしばらく無言の時間が過ぎる。
《そういう話か……なぜ、僕を犯人だと思うんだい?》
ミハエラがザエラに問いかける。
《そもそも、クロビスにオルガとカロルの存在をばらしたのはお前だ。奴が二人の殺害に失敗した場合に備えて当主に持たせた推測している。現当主の孫に権力の座を奪われることを恐れたのではないか?》
「あはは」、ミハエラは声に出して笑う。看守が訝し気に彼を見つめる。
《君の言うように頭が回る人物であれば、今こんなところにはいないよ。二人の存在を彼に知らせたのは僕の思慮不足だ。当時はスカーレット様を殺害した犯人を見つけ出すことしか考えていなかった》
《ミハエラは真面目で優しい人よ。そんな非道なことは絶対しないわ》
ミーシャはミハエラを必死に庇う。
《僕もミーシャさんの意見に賛成だ。あの事件の後、当主様とミハエラさんから手紙をもらい、文通を始めたんだ。実は何度か密会したこともあるんだ》
カロルから衝撃の事実が告白される。
《あれ、なんで、あたしだけ除け者なの?》
《……当主様は姉さんから手紙の返信がないと嘆いていたよ》
オルガの不満にカロルが答える。
《そうだとすると、犯人は誰だ?ミハエラに心当たりはないのか?》
《おそらく、アリエルの仕業だ。辺境伯当主の長女にして、僕の妻だ。彼女は呪いに詳しく、血筋に対する
ミハエラはそう念話で話すと、アリエル中将について語り始めた。
彼女は奉公に来ていた幼いミハエラを折檻したこと、クロビスを拷問中に神威に目覚めたこと、街の娘の失踪事件に関与している疑いがあること、ミハエラは淡々とアリエルの残虐な性格について話し続けた。
《ザエラ、指輪の件について彼女の身辺を調査してみるよ。僕を信じて欲しい》
《……そうだな。みんなで話す機会が持てて良かった。しかし、敵同士には変わりない。今後、戦場で会うときは互いに情けは無用だ》
《どうしてそうなるの?みんなが殺し合うなんて悲しいわ》
ミーシャは悲痛な叫びを上げる。
《ミーシャ、もう君を悲しませることはしないよ。ザエラ、今後のことで個別に相談がしたい。二人だけで話せないだろうか?》
ミハエラの提案を受けて、ザエラとミハエラだけで念話を続けた。
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