3.3.10 好色(アデル)

――王国歴 301年 晩冬 貴族連合討伐軍 第二王子屋敷


「あっ……ああっ……んっ、ああっ……あっ……」

早朝のベッドで第二王子アデルと女性が交わる。


女性はベットの端にお尻を突き出してうつ伏せになり、顔をシーツに包ませ、声を押し殺す。アデル王子は絨毯の上に仁王立ちになり、突き出されたお尻に男根を深く挿入し、腰を大きく振る。


女性の背中は短い体毛で覆われ、黄色の下地に黒い斑点が並び、美しい斑紋を見せる。アデルの腰使いが早くなるにつれて、体毛に覆われた短い耳が立ち、お尻から伸びる尾が悶えるようにうねる。


「うっ」、アデル王子は眉間に皺を寄せ目を細める。余韻を楽しむかのように、しばらく遠くを見つめた後、女性から男根を引き抜く。待機していた侍女がアデル王子の体を拭き、服の支度を始めた。


◇ ◇ ◇ ◇


アデル王子は屋敷の執務室で朝食を取りながら報告書に目を通す。


「鬼人を守護騎士に任命だと!?あの女レナータもいよいよ気が狂ったか」

ローズ公爵家陣営の調査報告書を読むなり、アデル王子は驚きながら失笑した。


「六大騎士団ではありえぬ。ノベルト騎士団の配下の者か?」

アデル王子は報告書を持参した秘書官に尋ねる。


「最近赴任したアルビオン騎士団の隊員とのことです。そういえば、暫く前に彼らから面会の申し出が来ておりました」


「俺には報告が来ていないが……エルゴ中将が止めているのか。今さら弱小騎士団から支援を受けても事務手続きが増えるだけだから無視したいのだろう。しかし、そのような些末な案件をよく覚えているな」


(我が陣営の戦功は他と大差を付けている。兵力の消耗は低く、士気も高い。副大将であるエルゴ中将の手腕は見事なものだ。このまま気づかないことにしておくか)

アデル王子は報告を受けていないことに不満を覚えたが、エルゴ中将に気を使い不問にしようと考えていた。


「申請に訪れた隊員が非常に美しい女性で我々の間で話題となりました。赤みを帯びた銀色の髪に赤い瞳で、その場にいた全員が彼女に見とれたそうです」


「それは興味深いな。よし、今すぐ面会の申請を許可しろ。エルゴ中将には俺から伝えておく」

アデル王子の指令を受けて、秘書官は敬礼をするとすぐさま退室した。


(戦場に連れてきた愛人たちに飽きて来たところだ。エルゴ中将には悪いが品定めささせてもらおう)

アデル王子は期待に胸を躍らせていた。


――王国歴 301年 晩冬 貴族連合討伐軍 アルビオン騎士団本部


「第二王子との面会が許可されたわ。面会日は明日だそうよ。随分と待たせたくせに急に呼びつけるのね」


「あと数日で戦争が再開されるから急いでいるのかな」


ザエラは各陣営の情報収集と第一王女から委譲された白エルフの訓練に集中していた。彼らの治療は既に終わり、体調は回復している。また、キュトラ中尉が部隊長として配属された。


ザエラは正直なところ突然の招集に躊躇していた。最大の規模を誇る第二王子陣営に、ザエラの騎士団が求められる理由がないからだ。黒猫ガリウスの調査書には、秀でた才能はないが何でもそつなくこなす人物と記されている。また、女好きで多くの人族や亜人の美女を愛人としているそうだ。


割り当て可能な部隊として、ララファ、フィーナ隊を残している。しかし、女好きだから美人で名高いアルケノイド達を提案するというのは、自由にできる女をあてがうような軽率な発想で避けるべきだ。


「開戦間近なので多忙を理由に自分一人でご挨拶してくるよ」

「一人だけだと失礼にならないかしら?私もついて行くわ」

サーシャはザエラの手を握り心配そうに見つめる。サーシャの薬指にはピンクダイヤがはめ込まれた指輪が光る。


「少し目立つけれど嬉しくて毎日身に付けているの」

ザエラの視線に気づいて恥ずかしそう話す。


「わざと目立つ指輪にしたんだよ。君は僕のものだから」

ザエラは愛おしそうにサーシャを抱きしめて口付けをする。


「キュトラ中尉です。失礼しま…あっ…した」

突然現れたキュトラ中尉は二人の行為を目の当たりにし慌てて出ていく。


◇ ◇ ◇ ◇


ザエラに呼び止められて部屋を再び訪れたキュトラ中尉に、アデル王子の面会の件と二人の関係を説明する。


「お二人は婚約されているのですね。先ほどは失礼しました」

キュトラ中尉は真面目な表情で謝罪する。


(アルケノイドに婚約の習慣はないが、ここは話を合わせておこう)

婚約という習慣がなかろうと、ザエラはサーシャを愛しているのだ。


「第二王子の面会の件ですが、私もブルーバーグ少佐と同じ考えです。悔しいですが、最も次期国王の座に近いのは彼です。折角の機会ですので、何らかの友好関係を結んだほうが良いかと思います。私も騎士団の一員として参加します」

キュトラ中尉はアデル王子との面会に自ら名乗りを上げる。


「ありがとう。ただ、女性が娼婦のような扱いを受けることはないだろうか?」


キュトラ中尉はしばらく考えた後、

「彼はシュバイツ伯爵に女性の白エルフの提供を求めたことがあるそうです。不安はありますが、我々は軍人です。相手の合意なく肉体関係を強いることは軍規定に抵触します。王位選定の最中にそのような危険リスクは冒さないと思います」

とザエラに説明した。サーシャもキュトラ中尉の意見に同意する。


ザエラは二人に背中を押され、参加可能な中尉以上の隊員で面会に臨むことにした。


「私は念ためにシャーロット様にご連絡してきますね」

と言い残し、キュトラ中尉は部屋から退出した。


「ブルーバーグ少佐はザエラ様の婚約者か……負けるものか」

キュトラ中尉は部屋を出た後、爪を噛みながら呟いた。


――第二王子本陣


「アルビオン中佐です。この度は面会いただきありがとうございます」


「第二王子のアデル・フォン・リューネブルクだ。貴公がヒュミリッツ峠において王国直轄軍を撤退させたと聞く。元帥閣下である父上に代わりほめて遣わすぞ」


「ありがたき幸せにございます。本日は、我が騎士団から、副団長のブルーバーグ少佐、ララファ中尉、フィーナ中尉、ヤヌーク中尉が参上しております」


ザエラに紹介された者は、深々とお辞儀をする。アデル王子は品定めするかのようにじっくりと彼女たちを見つめる。


「白エルフが貴公の騎士団にいるのか。余が相談したときはシュバイツ伯爵に冷たくあしらわれたが、貴公は随分と気に入られておるのだな。愚痴はさておき、貴公の申し出を聞こう」


「ララファ中尉、フィーナ中尉のアルケノイド部隊は、我が騎士団一の精鋭揃いでございます。ザルトビア要塞戦においてグロスター伯爵家の雷槌隊を打ち破りました。ぜひとも彼女たちを殿下の陣営の末席に加えていただけないでしょうか?」


「若すぎるな」、アデル王子はララファ中尉、フィーナ中尉を見つめて呟く。


アデル王子はザエラの申し出を断り、

「兵隊は不要である。秘書官としてブルーバーグ少佐、ヤヌーク中尉を余の陣営に加えてやろう」

とサーシャとキュトラ中尉の提供を要請した。


「ありがとうございます。誠に光栄でございます」

ザエラは自らの表情を隠すかのように俯いたまま礼を述べる。


(懸念した通りになったか……仕方がないが悔しいな)

ザエラは心の中で苦々しく思いながら、面会は終了した。


――アルビオン騎士団本部


「我が騎士団に参加したばかりに……申し訳ない」

面会終了後、ザエラはキュトラ中尉に謝罪をする。


「ザエラ中佐のお役に立てるのでしたら構いません。貴方の側で一緒に戦えないのは残念ですが……。さて、早速、シャーロット様にお伝えしてきます」

キュトラ中尉は笑顔で部屋を後にした。


「サーシャも済まない。君には苦労ばかり掛けるね」

サーシャを強く抱きしめる。


「距離が遠くて念話が繋がらないのが寂しいわ」

「ああ、僕も寂しくて堪らないよ。今晩は離さないよ」

突然、サーシャは体を離すと机の上にある一枚の招待状をザエラに手渡す。


「『今晩』で思い出したわ、オズワルト第一王子から面会の招待状よ」

ザエラは面会を申請していない王位候補者の招待状を訝しそうに見つめた。

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