3.2.28 初雪(ミハエラ)
――王国歴 300年 仲冬 ハフトブルク辺境伯 イシュトバーン城
「その水色の甲冑姿は、ハフトブルク辺境伯副大将 ミハエラ中将だな。これは朝駆けしたかいがあるというものだ。我が名は……」
ミハエラは敵が名乗り終わる前に手刀で相手の胸を打ち抜く。神威‟
「名乗りを上げる前に攻撃を仕掛けるとは……卑怯な……」
敵の嘆きを聞く余裕もなく、次の敵の首を跳ねる。瞬く間に辺り一帯は敵兵の死骸が重なり、血だまりができる。敵兵の断末魔と軍馬のいななきが白い湯気となり彼の周りに立ち込めている。
(もういやだ、殺したくない……このままだと水の奥深くで窒息してしまう)
ヒュミリッツ峠の街道から敵の側背を突くべく、隠密に進軍していた王国直轄軍、二万五千は敵遊撃部隊による補給部隊の壊滅により撤退を余儀なくされた。そのため、本国からの援軍が到着する来年春まで、辺境伯軍十万で敵軍十五万を相手しなければならない。
ベルナール公の戦死に続き、王国直轄軍の撤退と、敵軍の士気は高まり、攻撃は次第に苛烈を極めていく。次期国王の座を掴むべく、敵軍は戦功を争うように早朝から深夜まで攻撃を続ける。先陣で応戦する彼の心は疲弊し限界に近づいていた。
(雪が積もれば春まで停戦だ……はやく雪が降って欲しい)
「お願いだから……お願いだから、雪よ、降ってくれ」
ミハエラは灰色の空を仰ぎ叫ぶ――すると、空から白い雪が降り始めた。空を仰ぐ彼の顔に当たり溶けていく。彼は変身を解き、体中で雪を受け止めた。
初雪は深夜まで続き、翌日には戦場一面に雪が積もり両軍で停戦が結ばれた。その時には、ミハエラは一枚の書置きを残し姿を消していた。
――翌日 アニュゴンの街
「今日はずいぶん冷えるけど、雪が積もるとは。珍しいわね」
ミーシャは窓を外を見ながら、両手に息をかけながら驚きの声を上げる。侍女が部屋の暖炉に薪を入れ火を付ける。
「奥様、お坊様が外で雪遊びをしたいそうです。いかがいたしましょうか?」
「私は書類仕事で手が離せないので、お前たち相手を頼む。厚着をさせてね」
侍女は挨拶をして部屋を後にした。息子が大声して喋りながら階段をドタトタと降りる音が聞こえる。彼は初めてみる積雪に興奮しているのだろう。
紅雲織の手工業ギルト設立と地下迷宮の解放により、この街は財政的に豊かになり発展を遂げた。二度に渡る拡張で街は約四倍の面積となり、アルケノイド以外の住人が増え続けている。技術者、商売人、冒険者などの人族や
「書類仕事の前に、私も雪を楽しむとするか」
安楽椅子を窓際に置き、葡萄酒を注いだグラスを片手に腰を掛ける。雪に積もる街並みを見ながら葡萄酒を口に含む。
(今年はミハエラに会えなかったわね。寂しくて泣いていなければよいけど……戦争が終われば、突然訪れて驚かせてあげようかしら)
「トントン、トントン」
ぼんやりと考え事していると窓を叩く音でふと我に返る。窓の外にはミハエラが手を振る姿が見える。
「伯爵家では二階から入るのが礼儀なの?」
溜息をついて窓を開ける。ミハエラは部屋に入りミーシャの腕に寄りかかる。
「相変わらずだね、ミーシャ。君に会いたかった」
ミハエラの服は濡れて体は冷たい。体を震わせながらミーシャへ笑顔を見せる。
「無理して笑わないで、情けない顔してるわね。服を脱いで体を拭きましょう」
ミハエラの服を脱がせて体を拭いたあと、毛布を羽織らせ暖炉の前に座らせる。暖炉の炎に悲しそうな彼の顔が浮かびあがる。ミーシャは柔らかな寝間着に着替えミハエラに近づく。
「抱きしめてあげようか、 甘えていいわ。こんな日は滅多にないわよ」
ミハエラはミーシャに無言で抱き付き、胸の谷間に顔を埋め、声を殺して嗚咽する。
「よく頑張ったね、辛かったでしょう。声を上げて泣いていいのよ」
大きな声で泣きじゃくるミハエラの頭と背中を撫でているうちに彼は眠りに落ちた。
◇ ◇ ◇ ◇
「目が覚めた?食事を用意したから食べてね」
ミハエラが目を覚ますとベットの上にいた。ミーシャの胸で泣いたことを思い出し、恥ずかしそうにうつむく。
「貴方が泣き虫なのは出会ったときから知っているわ、いまさら恥ずかしがらないでよ。食事をして笑ってちょうだい。私は貴方の笑顔が好きよ」
ミーシャは笑いだす。いつもの
「貴方がくれた葡萄酒は美味しいわ。食後にどう?」
食事を終えたミハエラは突然、ミーシャを抱き寄せる。
「葡萄酒がこぼれてしまうわ。危ないわよ」
「僕に口移しで飲ませて」
ミハエラは小声でミーシャにお願いする。
「今日だけよ、ほんとに甘えん坊ね」
ミーシャは葡萄酒を口に含みミハエラに口移しする。何度か繰り返すうちに二人は唇を合わせて舌を絡ませ合う。ミハエラはその間にミーシャの寝間着を脱がしていく。
「今日はまだ大丈夫かい?」
「もう発情期は終わりかけているけど、貴方なら特別にいいわよ」
ミハエラはミーシャの柔らかな乳を揉みながら乳首を吸い始めた。
「ねえ、僕にお尻を向けて四つん這いになって」
乳を堪能したミハエラはミーシャにお願いする。
「本当に今日だけよ。恥ずかしいわ」
「ミーシャ、本当にきれいだ」
ミハエラはミーシャのお尻を撫でながら唇を這わせる。そして、濡れているのを確かめて中腰となり彼の男根を挿入する。ミハエラは両手で乳を揉みながら、最初はゆっくり、次第に激しく腰を動かす。ミーシャの喘ぎ声も次第に大きくなる。
「最後は貴方の顔を見たいわ」
ミーシャは仰向けになりミハエラを誘う。お互いの顔を見つめ合いながら絶頂を迎え、ミハエラはミーシャの膣の中で果てた。二人は結合したまま唇を絡ませ余韻を楽しむ。
◇ ◇ ◇ ◇
「ミーシャ、ありがとう。君のおかげで元気が出たよ」
ミハエラは暖炉で乾かした服を着ながら名残惜しそうに帰り支度をする。
「ねえ、ミハエラ、戦争が終わるまで会うのはやめましょう。特にこの街に来てはだめ。私たちの関係が知られると戦争犯罪人としてお互いの家族や、住民まで巻き込んでしまうわ。あと、ザエラがもうすぐ街に来るの。物資と隊員を補充して、春には貴方の敵軍へ合流するわ……」
「嫌だよ、そんなの僕が耐えれるはずがない。君は僕がいなくても寂しくないの?」
「子供のように駄々をこねないで。私はアルケノイドよ。人族の男性との間に愛情など存在しないわ。貴方がいなくても寂しくなんて……ないわよ」
「戦場で僕が死んだらもう会えないんだね。じゃあ、死ぬ前に教えてよ。君の子供の父親は……」
「お願い、もう帰って。死ぬなんて軽々しく言わないでよ。あと、アルケノイドの子供に父親は必要ないわ。男なんて誰でもいいのよ」
ミハエラはミーシャの言葉を聞くと、窓を開けて飛びだし姿を消した。
「私は、貴方以外の男性と関係を持ったことはないわ」
ミーシャは目に涙を浮かべ、開け放たれた窓を見ながら呟いた。
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