3.2.27 飛翔(ベロニカ)
――王国歴 300年 初冬 ザルトビア要塞
「……♪ 風の翼に乗って届け、懐かしい唄よ
ベロニカは互いに手を取りながら上空を旋回し、唯一記憶にある歌詞を思い出しながら寂しげに歌う。その声に引き寄せられたかのようにパーピーが集まり、二人の後を追いながら飛び回る。
「こうなるとだめね。
ララファがあきらめたように肩をすくめる。二人が上空で歌い出すと、ハーピー達はその歌声に夢中になり、アルケノイドとの意思疎通を拒むようになる。最初は歌に合わせた鳴き声が聞こえていたが、今では合唱のような歌声が聞こえる。知能の低い魔獣が人の声を真似るのは非常に珍しい。
「ベロニカ、定期健診するから降りておいで!!」
白衣を来た
ソフィアの大声にベロニカが気づき、急旋回して降りて来た。
◇ ◇ ◇ ◇
「アルビオン中佐、体温と心拍は異常ありませんでした。胸の手術で切断した肋骨はきれいに接着しています」
ソフィアは二人の
「ありがとう。このまま様子見で大丈夫そうだ。二人には帰るように伝えてくれ」
「ここ数回、彼女たちを診ていないでしょう。二人が辛そうなので今日は顔を出したらいかがですか? 」
「何か不安なことでもあるのかな。わかったよ」
「全くわかってないわよ」
ソフィアは、診察室に向かうザエラの背中に向かい呟いた。
◇ ◇ ◇ ◇
「手術跡が消えたね。順調に回復しているから安心するといい」
ザエラは笑顔で彼女たちに声を掛ける。
ベロニカは羽を波打たせながら恥ずかしそうに口を開く。
「あの……以前みたいに魔力の循環をしてもらえませんか?」
ザエラは頷くと二人と手を握り、魔力の波長を調整して手を通して流し込む。
「はぁ、暖かい……気持ちいいです」
しばらくすると二人は彼の手を両手で掴み、自らの胸元へと誘う。
「魔石に近いと特に気持ちがいいです。全身がとろけるようです」
ザエラは魔力を強めにして、魔石の修復具合を確認する。
目をつぶり魔力操作に集中していたが、ふと意識を外に向けると、目の前には二人の顔が近づき、彼女たちは震えながら交互に唇を重ねて来た。
思わず欲情に流されそうになるザエラは部屋の片隅で静かに見つめる目に気づいた――聖鬼のアイラだ。ソフィアの診察を見学に来ているのを思い出し我に返る。
「さあ、二人とも今日の診察はここまでだ。ソフィア、薬草を出してあげて」
ザエラはアイラの軽蔑するような目から逃げるように診察室を出た。
◇ ◇ ◇ ◇
「エミリア、見たことがない魔鳥がいる。カロルさんを呼んで」
黒エルフのテレサは朝の掃除でハーピーの獣舎に入るなり、エミリアに叫ぶ。カロルが慌てて駆け付け、三人で慎重に獣舎に入る。そこにはハーピーではなく、二回り大きく茶色の鱗のような翼を持つ魔鳥がいる。ハーピーとは異なり、頭部には上部側面に角が二本生え、
「そいつは
近くにいた黒エルフのディアナによると、ハーピーは竜の眷族になると翼鱗魔獣に存在進化するとのことだ。以前、村の長老から聞いたことがあるそうだ。
ベロニカが獣舎を訪れ、翼鱗魔獣を見るなり抱きしめる。
「成長したんだね。
ザエラとサーシャも集まり検証したところ、翼鱗魔獣はアルケノイドとの意思疎通を拒み、ベロニカの命令のみに従う。おそらくハーピー達は二人の眷族になることで翼鱗魔獣へと存在進化したのだろう。
◇ ◇ ◇ ◇
ベロニカは毎日、翼鱗魔獣と空を飛びながら歌う。その歌声は辺りへと広がり、引き寄せられるように魔鳥が集まる。次第に空は魔鳥の群れで覆われ、獣舎の翼鱗魔獣の数は増え続けた。そしてついには数体の小型の飛竜まで集まり、地上に降りても二人から離れようとしない。
「
ベロニカの希望を聞いたザエラは飛竜と暮らせる専用の宿舎を準備した。
――これが第十特魔大隊の飛行部隊の始まりとなる。
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