3.2.26 百鬼夜行(ジレン)
――王国歴 300年 初冬 ザルトビア要塞
「おう、久しぶり、まだ死んでいないのか?」
「てめえから博打の掛け金を受け取るまで死ぬわけにはいかねえぜ」
あちこちで再開を喜ぶ声が聞こえる。ジレンとシルバの恩赦が公布されると、昔の盗賊団の構成員が第十三旅団第十特魔大隊に集結を始めた。ザエラの中佐への昇進により特殊魔導独立中隊は大隊へと再編成され、魔人の隊員が多いという特殊性から特魔大隊という名前が与えられた。
「あの体の大きな鬼人、丸坊主で頭の刺青が怖いです。ララファ、挨拶するのです」
「嫌よ、フィーナがすればいいでしょ。あら、あそこの鬼人は格好いいわね」
他の隊員達が遠目で見る中、総勢二百名の鬼人が集結が完了した。
◇ ◇ ◇ ◇
ジレンに呼びだされ、彼の天幕へ一人で訪れると、シルバと二人で出迎えてくれた。二人と向き合い椅子に腰かける。二人とも晴々とした表情だ。
「昔の仲間に会えて嬉しそうだな」
「ああ、皆と再び会えるとは思いもしなかった。しかも、全員死んでねえとはな」
ジレンは目頭を押さえて、喉を詰まらせながら喋る。感無量のようだ。
「戦死者はいないのか?常に先陣を走らされ、敵の弓除けに使われる程、服役軍人の扱いは酷いと聞いているがな」
「俺たちはこう見えてずる賢いんだ。若頭補佐がうまいことしたのだろう。うちの盗賊団は俺たちを含めて四人の幹部がいるんだ。残りの二人は後で紹介させてくれ。ともかく、恩赦が決まり仲間と再会できた。あんたは約束を守る信頼できる男だ。俺たち一家はあんたに命を預けることに決めたぜ」
総勢二百名の鬼人はすぐにジレンの天幕へと姿を消し、何か相談を始めていた。おそらく、仲間たちと十分に話した上での覚悟だろう。
「今回はお前たちが結果を出したからな。しかし、これからは辛いこともある。俺たちは軍人だ。戦争に勝つためには命を投げ打つ場面が出て来るはずだ。その時は、その命を遠慮なく使わせてもらう。俺について来てくれ」
「二人は真面目だから話が堅苦しくて困る。生き延びて勝てばいいんだ。そうすれば昇進して金が手に入り、美人に囲まれてうまい物が食えるさ。簡単な話じゃないか」
シルバは二人の会話をめんどくさそうに遮り、小さな盃に酒を注ぐ。
「俺たちは互いに酒を飲むことで契りを交わす習慣でな。
三人は小さな盃に注がれた酒をゆっくりと回し飲みした。葡萄酒でも麦酒でもない透明で甘い味がする酒だ。
「面白いな。隷属魔法よりよほど効果がありそうだ。鬼人特有の習慣なのか?」
「俺たち孤児が盗賊団として結束を強めるために考えたおまじないだ。酒が手に入らないときは水で代用していたぐらいさ」
「さて、残りの幹部を紹介したいが、兄貴からその前に何かあるか?」
(兄貴か……何だかむずがゆいな。慣れるのに時間が掛かりそうだ)
「部隊編成についてだ。ジレンはオルガの副将を頼みたい。シルバが鬼人部隊を纏めてくれ。あいつは猪突猛進で敵陣深くに斬り込み過ぎる。
「了解した。俺もあいつは心配で目が離せない。まるで死に急いでいるかのようだ。義理の妹と聞いたが、どういういきさつなんだ?」
「俺からは何も話せない。お前に心を許すようになれば自ら話すだろうさ」
(あいつはもっと自分を大切にしないと。
手酌で酒を飲んで顔が赤いシルバがおもむろにザエラに話しかける。
「部隊長の件は任せてくれ。それとは別に兄貴に質問がある。
直球な質問に驚く様子もなくザエラは頷く。
「くそう、失恋したな。残念だが次の出会いに乾杯だ」
「お前が失恋するたびに乾杯していたら酒がいくらあっても足りないぞ。さあ、そろそろ幹部を紹介させてくれ」
合図をすると二人の鬼人が現れた。
◇ ◇ ◇ ◇
「私はラクシャと申します。種族は風鬼頭でございます」
鬼人としては小柄で背丈は百七十セルクぐらいだろうか。銀色の髪の毛に青い目、額には一本の角が生えている。体は引き締まり、目は鋭いが整った顔つきだ。女性を夢中にさせそうな危険な雰囲気が漂う。なお、鬼人の場合は、存在進化すると
「こいつは風を操るのが得意で風を圧縮して剣を生成できます。さらに、目に見えず、長さを変えれるので剣筋が読めません」
「お前たちの兄貴のザエラ・アルビオンだ。俺は長巻という刀を使う。今度、ぜひ手合わせをしてくれ」
ラクシャは頷いて一歩さがり、隣の丸坊主で頭に刺青のある巨大な鬼が進み出る。
「俺の名前はゴンズ、種族は怨鬼頭でございます」
腹の底から響く野太い声で挨拶を行う。
「それで、本当のところはどうなんだ?」
ザエラの質問に、ゴンズは驚き、ジレンに顔を向ける。
「兄貴には魔眼は効かないらしい、姿を見せな」
「わかったよ」
ゴンズはみるみる縮み女性の鬼人が現れた。
「あたしの名前はヴェルナ、種族は怨鬼頭でござんす。舐められないように、普段はゴンズに化けて暮らしておりやす」
黒色の長髪の女性で、背丈はラクシャと同じぐらいだ。角は二本、小顔で美しい顔立ちだが、白目が黒く瞳孔が金色だ。ちなみに、三人とも幻覚の魔眼だが、シルバとジレンは複写、ヴェルナは
「姉御は怨念を操り敵を弱体化します。相手の身に
「そうやで、私はジレンと同じでこの子達が何より大切やねん。故郷の湾岸都市は鬼人族との貿易が盛んでな。あたしらは遊郭で鬼人が楽しんだ後に出るゴミみたいなもんや。みんな捨て子や。ジレンを領主にして、あたしらみたいな仲間を集めて一緒に暮らせるようになりたいんや」
「少将以上の階級になれば爵位と領地も与えられる。ただし、部隊として戦功が重要なのでまずは全員に恩赦がでないとな。それまでは、俺の故郷の街が住人を募集しているから、そこで預かることはできる」
「それはええ知らせやな。早速、街に逃れた仲間に連絡したいところやけど……」
「居場所を教えてくれれば、
「兄さんは、ほんまにええ男やな。惚れそうや。早速、居場所をまとめて伝えるやさかい、よろしゅう頼んます」
「俺から質問だが、聖魔法を使える鬼人はいるか?故郷の街の
「聖鬼なら一人いるよ。誰かアイラを呼んで来てくれ」
桃色の髪の毛で可憐な少女が呼ばれて出てきた。しかし、ザエラに目を合わせようとせず、ジレンに傍に座り怯えるように腕を握る。
「この子は可愛いから、騙されて遊郭で客をあてがわれてね。無理やり乱暴されてからこんな風に変わってしまった。昔はよく笑う明るい子だったんだけどね。あたしがゴンズに化けて睨みを効かせていたのは、この子たちを守るためでもあるんだ」
ジレンは少女の髪の毛を撫でているが、歯を食いしばり顔は怒りで紅潮している。当時を思い出しているのだろうか。
「聖魔法を使える隊員が少なくて、医療班へ配属したいのだが難しいだろうか?医者はソフィアという人族の女性だ。ラルゴが良く知っている」
「その医者と顔合わせさせてくれないか?女性なら大丈夫だと思う」
「了解した。早速、面会の場を設けよう」
――その後二百名を超える鬼人達が酒を手にしてなだれ込み、朝まで宴会が続いた。
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