3.2.16 三人の中隊長(2)
――王国歴 300年 晩夏 ヒュミリッツ峠付近 ガルミット王国軍夜営地
――街道中央付近(ザエラ)
(体が動かない……なぜだ)
突然異音が聞こえた後、体の力が抜け地面へと倒れた。魔力の循環が止り、体中に魔力が淀む。外に放出しようとしても魔法が発動できない。意識が朦朧として、念話で話している隊員の声が聞こえるが、こちらから伝えることはできない。
(魔石からの魔力の脈動が乱れているな。魔力臓器の循環に切り替えるか)
ザエラは背中の下の腹部を膨らませるように深呼吸を繰り返す。魔力臓器の循環を促す呼吸法だ。しばらくして意識は正常に戻る……が、体は動かない。敵から身を隠すため‟
(体を動かす魔力が足りないなら、
胸に刻まれた外装魔石を
「カロルか……」
カロルの呼び掛けが聞こえ、‟完全擬態”を解き声を掛ける。
「状況を教えてくれ」
ザエラは駆け寄るカロルに状況を尋ねる。
「サーシャ隊と
「そうか、
「私は平気でございます」
姿は見えないがどこからともなく声が聞こえる。
「
「畏まりました」
「カロルは黒エルフ達を街道脇の森まで避難させろ。回復したら先に退却だ」
「了解……あと、義兄さん、回復してもしばらくは念話を使わないでね」
カロルは念話を使わないように何度も念押しした後、後方に戻る。
(魔族特有の魔力波長を
ザエラの魔力臓器から生成される魔力は人族の波長特性を持つ。そこで、魔石の魔力波長を外装魔石によりそれへ
(変換効率が悪いのだろう…仕方ない)
「時間もないことだ、味方の援護に向かおう」
ザエラは具合の悪そうなラピスを背中に乗せ、前方へと駆け出した。
――アレス公左翼伏兵(サーシャ隊)
ザエラに変身したシルバと敵の少佐が斬り合いの最中だ。敵将の大剣と彼の
「
「さあ、どうだろうな」
シルバが大鉈で切り付けると、相手は大剣で受け流しながら彼の懐に入り、大剣を手から離す。そして、彼の無防備な顎を拳で砕く。シルバは口から血を流しながら地面を転がる。その隙に、大剣を再び握り、彼の頭を目掛けて振り下ろす。
「ベルナール様が仇、その首をいただく」
「ドスン」、敵将の大剣はシルバを覆うように現れた黒い砂の塊に吸い込まれる。
「な、なんだ、これは……」
「砂鉄だよ、俺は鉄を操ることができるのさ、こんな風にな」
シルバは砂鉄の間から顔出すと口から鉄血の針を吹く。敵将は片目に針が刺さり苦痛に顔を歪めるが、指で針を掴み引き抜く。
「そのような職業など聞かぬな。鉄など安物の素材ではないか」
「ああ、
シルバが深呼吸をし中段の構えを取る。次第に大鉈の形状が変化し、細身の
「ウオオオオ」、叫び声を上げながら突進してくる敵将に大太刀を水平に振りぬく――大剣ごと胴体が真二つに割れ、上半身が地面へと落ちる。
「敵将、このシルバが討ち取ったぞ」
鬼人たちは歓喜の雄叫びを上げると上官を失った敵兵は退却を始めた。
「ふう、何とかしのいだか」
シルバは変身を解除し地面に横たわる。他の鬼人たちも倒れ込む。ラルゴに作らせた大鉈がこれほどの性能とは――あいつには鍛冶屋がお似合いかもな。でかい体を繭の中で縮こませているラルゴをいじりたい気分だが、声を出す気力もない。
――突然、上級聖魔法‟完全回復”の魔方陣が味方の隊員と大蜘蛛を包み込む。
(上級聖魔法の多重詠唱なんてあいつの仕業だろう)
シルバが後ろを振り向くとザエラ・アルビオン本人が息を切らして現れた。
「遅かったな。みんな無事だぜ。あと、少佐を仕留めたぜ」
「そうか、
ザエラは急いで敵右翼に向かい走り始めた……が、突然振り返る。
「シルバ、討伐証明忘れるなよ」
そう言い残し、再び走りだした。
(俺のことなんかどうでもいいから、
シルバは大きくため息をついて起き上がり、敵将の遺体から階級章を探し始めた。
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