3.2.14 試練
――数ヵ月前の
隊長室に呼び出されたジレンとシルバはザエラを睨みつける。
(あれだけ痛い目を見て反抗的な態度を改めないとは褒めるべきなのか)
ザエラは呆れたように二人を見つめながら考えていた。
「おい、シルバ、
「小隊長、そんな話をするために俺たちを呼んだのかよ、ふざけんな」
シルバはザエラに顔を近づけてメンチを切る――その刹那、彼は拳でシルバの顔を数発殴り、みぞおちへ蹴りを入れる。
「てめえ、やんのかこら」
顔を鼻血で血だらけにしてザエラに殴りかかろうとするシルバをジレンが制する。
「お前とはまだ決着ついてねえぞ。俺たちに勝てると思ってるのか?」
ジレンはシルバを抑えながら、彼を睨みつける。
「弱い奴が偉そうな態度を取るな、外に出ろ、俺が相手をしてやる」
訓練場でザエラは二人を徹底的に叩きのめした。気絶して嘔吐しようが、失禁しようが構わない。相手が降参するまで黙々と続けた。
◇ ◇ ◇ ◇
「降参だ。もう止めてくれ」
二人の歯はすべて抜け、顔は腫れあがり、口から血を吐き出しながら声を絞り出す。ザエラは表情一つ変えず、聖魔法、‟
「お前らの望みはなんだ、言ってみろ」
ザエラは二人に語り掛ける。
二人は反抗的な態度は鳴りを潜めて喋り始めた。
「俺は
シルバは迷いなく答える。
「彼女は俺の女ではないけどな、ジレンはどうなんだ」
一瞬嬉しそうな顔をしたシルバを横目にジレンに話しかける。
「俺は……昔の仲間たちを集めて以前のように一緒に何かやりてえな」
ジレンは両手を組みうつむいたまま呟く。
「二人の望みは叶わないな。お前らは服役軍人のくせして、大した戦功も上げずに上司に反抗してばかりだ。このままだと、死ぬまで戦場だな」
「俺はまだ仲間を残して死ぬわけにはいかない。逮捕された仲間たちは別の部隊に分散して配属されているんだ。逃げた仲間も潜伏生活で辛い思いをしているはずだ」
「お前は馬鹿にしているかもしれないが、俺もまだ死ねない。世の中の美人とご馳走が俺を待ってるんだ」
(こいつら魔人のくせして随分と人族臭いな)
シルバとジレンの言葉を聞きながらザエラは心の中で苦笑した。
「まだ諦めない気持ちがあるなら俺にその身を預けろ。俺ならお前たちの望みをかなえることができる。どうする?」
「鬼人は軽々しく契りは結ばない。俺はまだあんたを信用できねえ」
「では、お前たちが少佐(千人将)の敵を討ち取れたら、俺が少将に直談判して恩赦の手続きをしてやろう。この約束が成功すれば俺を信じてもらえないか?」
「
「
「
「勘違いするなよ、俺たちはまだ信用してねえ。軍人として命令には従うが、それ以外は俺たちの流儀を貫かせてもらう」
こうして二人は、少佐の敵を倒すという目標に向かい動き始めた。
――王国歴 300年 晩夏 ヒュミリッツ峠付近 ガルミット王国軍夜営地
《音が聞こえ始めたとたん、黒エルフ達が次々と倒れ始めた。後方はどう?》
カロルから念話が全員に入る。
《オルガ隊だ。体が思うように動かないが……戦闘は何とか継続可能だ》
《ジレン隊は、立ち眩みがする程度だ》
《サーシャ隊……こちらは意識を保つのがやっとよ。円陣を組んで耐えているわ》
《ザエラ兄さん、じゃなくて、中隊長は?》
《……》
ザエラからの反応がない、隊員全員が不安に包まれる。
《シルバは鬼人を連れてすぐにサーシャ隊と合流しろ、
ジレンの強い呼びかけで隊員は我に返り行動を開始する。
「こんな立ち眩み、大酒のみの俺らにはなんともねえ。
特に鬼人の切り替えは早くすぐに隊列を組むとシルバを先頭にサーシャ隊の元へと敵兵を突き飛ばしながら突進する。下品な掛け声がなければ満点だ。
ジレンは敵軍に深く侵入したオルガ隊へ支援に向かう。体に雷を身に纏い触れる敵を失神させながら敵兵の間を駆け抜ける。
カロルはザエラが指揮していた中間地点へと移動し辺りを見渡す。
「カロルか……」
彼は声がした方向に目を向けると、地面に横たわるザエラを発見した。‟
「ザエラ兄さん」、カロルはザエラへと駆け寄った。
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