3.2.4 追跡調査

――王国歴 300年 晩夏 ザルトビア街道


特殊魔導独立中隊はレイデン少将から指令を受けた数日後に要塞を後にした。隊員は後方支援を除いた八十名。ブルード少将の偵察隊が伏兵の襲撃を受けたことも考えられるため、ザエラはできるだけ多くの隊員を連れて行くことした。百名未満だが、小規模な戦闘であれば十分対応できるだろう。


[部隊構成]

■斥候部隊:カロル隊

 ディアナ

 黒エルフ十五

■軽装騎兵:サーシャ隊

 ララファ

 フィーナ

 アルケノイド 二十

 ハーピー 二十

■突撃騎兵:オルガ隊

 イゴール

 キリル

 ホブゴブリン 二十

■重装騎兵:ジレン隊

 シルバ

 鬼人 二十


行軍速度を上げるため、全員に騎獣が割り当てられた。カロル隊は、黒エルフの要望で白髪狼ホワイト・ハウンド・ウルフに騎乗している。この魔獣は頭が良く、鼻も効くため、狩りには欠かせないそうだ。黒エルフの村では家族の一員として飼育されているらしい。斥候として何匹か余分に引き連れている。


なお、ザエラはジレンにも騎獣の要望を聞いたが、「獣のような女に跨りてえ」と言うので、メスの魔騎竜アリオラムスを与えておいた。


――出発から六日目 野営地


「報告書できた?こちらは準備できているわよ」

「机の上に置いているから届けておいて」


毎日、レイデン少将への報告書をハーピーに括り付けて要塞へと送る。伝書鳩よりも早く正確に届けてくれるが、人族では意思疎通できるものが魔獣調教師モンスター・テイマーとその上位職のみに限られるため、普及はしていない。


「ねえ、何読んでいるの?」

「グロスター伯爵家ベルナール公の自叙伝だよ。今回の事件に関係することが書かれていないか調べているんだ」

金細工で装飾が施された豪華な本を読みながら彼は答える。


これは混魂魔法‟魂の自叙伝作成クリエイト・ソウル・ビオグラフィー”により生成した本だ。捕食した魂の記録を文字や絵として読めるようになる。


また、実体化させて他の人に見せることもできる。もちろん、魂の鮮度も影響し、古く劣化した魂では成功しない。元々は、ザエラの片割れの魂の記憶を意識的に読むために編み出した魔法だ。


サーシャも加わり、二人で探したが関係する記述はない。本を閉じようとしたとき、魔術紋様が書かれたページに目が止まった。


「あなたの背中のものと似てるわね……でも、ちょっと違うかな」

サーシャがその頁を見ながら呟く。ザエラが何気なくその魔術紋様に触れると――――その刹那、それが光り背中に激痛が走る。


「背中を見てくれないか、焼けるように熱いんだ」

サーシャは背中を見て驚いた。魔術紋様が一重から二重に変わり、小円の部分は本に書かれていた模様と同じで、焼き印を押されたように赤く腫れている。


――出発から七日目 行軍休憩中


ザエラが雷属性の魔法‟雷撃サンダーボルト”を唱えると雷が落ちる。サーシャと二人で顔を合わせる。雷属性の魔法に成功したのはこれが始めてだ。


「背中に焼きこまれた魔術紋様は血族魔法‟雷鳴"で決まりだね」

ザエラは背中の紋様が発光し痛みで疼くのを我慢しながらサーシャに話し掛ける。


(血族魔法の保持者を捕食すればそれを継承できるということか。複数の血族魔法を使えるようになれば戦術の幅が広がるな)

ザエラは新たな発見に興奮していた。


「ただ、随分と小さい紋様だわ。外円のものとは比較にならないくらいよ」

「相性なのか、鍛えれば成長するのか……」


二人の会話にディアナが慌てた様子で割り込む。

「斥候に出した狼たちが随分と怯えてるんだ。この先は警戒したほうがいい」

「報告ありがとう。サーシャ、ハーピーを飛ばして偵察をお願い」


◇ ◇ ◇ ◇


「前方の地面に何か丸い大きな塊が何個も見えます。ただ、それが何かまではこの距離では分かりません」

ララファがパーピーと視覚を共有し数ケルク先の様子を報告する。視覚が共有できる限界の距離まで近づかせている。


「他に気になるところはあるか?」

「その一帯の木々がすべて枯れており、生き物らしき姿はありません」

(毒を使っている可能性があるな)


「全員、臨戦態勢で出発の準備開始。状態異常を防ぐ腕輪ブレスレットと通信用ピアスを忘れずに身に付けておくように」

本作戦では想定外の出来事に備えて全隊員に腕輪とピアスを渡していた。腕輪はカロルと手分けした手作り品だ。地下迷宮を攻略した際に作成した腕輪と比べると簡略化されているが、ある程度の毒には耐えることができる。


隊員は慌ただしく出発の準備を始めた。

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