3.1.16 要塞戦 砦攻

――王国歴 300年 夏 ザルトビア要塞の城壁 午後


要塞の城壁にいる守備兵たちは中央に集まり主戦場を眺めていた。


「ベルナール公が前線に出られたみたいだ。敵の前線が瞬く間に突破されていくぞ」

要塞の城壁からの眺望は良く、敵の第七旅団の密集隊形に自軍のグロスター伯爵軍が槍のように突撃する様子が見える。


「あれを見ろ、手前の予備兵同士も戦闘してるぞ。普段は牽制だけなのに珍しいな」

要塞近くでは、第十三旅団と別動隊が戦闘状態となり、敵味方が入り乱れている。


戦端が開かれてから数週間経つが、敵のイストマル王国軍がこの要塞を攻めることはなく、守備兵達は気が緩んでいた。彼らは午後の日差しに眠気さえ覚えながら、まるで他人事のように戦場を眺めていた。


「おい、ハーピーが集まっているな。あいつらの鳴き声はうるさくてかなわない」

誰かが呟く。見上げると城壁の真上には数十羽のハーピーが白い翼を拡げて旋回している。弓矢で追い払おうと矢を構えた瞬間、ハーピー達が一斉に鳴き声をあげた。


「うわああ、なんだ頭が割れるように痛い」

ハーピーの鳴き声は聞くものに状態異常を引き起こす。頭を抱えて苦しそうに転げまわる守備兵で辺りは騒然となる。


「救護班を呼んでくれ」

地面を這いつくばりながら、目の前の兵士の足元を掴み声を絞り出して助けを求める……が、相手から返事はない。


「他に頼みな、あたしらは敵兵だよ」

オルガが足を掴む守備兵の首を跳ねる。


「オルガ隊、一気に城壁を占拠するよ、ドジ踏むなよ」

オルガの後ろに控えていたホブゴブリン達が守備兵へ襲い掛かる。彼らは擬態した大蜘蛛の腹に捕まり、城壁を素早く登ることで、見張りに気づかれることなく強襲を実現した。


「て、敵襲だ。鐘を鳴らせ、この高さの城壁を上ったのか? 監視塔の見張りは何をしていた!?」

守備兵は辛うじて敵襲を知らせる鐘を鳴らしたが、援軍が来る前に城壁は占拠された。鐘の音を聞いて城壁を上る階段へと兵士達は殺到したが、階段上の通路が狭く、オルガ隊に行く手を阻まれる。


「おい、ロープを下せ」

オルガが叫ぶと太くて長い二本のロープが城壁に固定されて下へと投げおろされる。


ロープがミシミシと音を立て、ズシン、ズシンと城壁が揺れる。しばらくして、大牙オーガのキリルとイゴールが、ロープを握り、城壁の上へと現れた。手の平は擦り剝けて血が出ているが、急速に回復していく。


「キリル、イゴール、この下が要塞の扉だ。思う存分に暴れてこい」

二体は敵兵が集合している内側の地面へと勢いよく飛び降りた。


――――数秒後、大きな岩が地面に落下したような轟音と共に地面が揺れる。


城壁の内側に突如現れた二体の大牙を目の当たりにし、敵兵達は混乱した。二体は怯え尻込みする敵兵には目もくれず、要塞の内扉に駆け寄り、扉に掛けられたカンヌキを外そうとする。


「そいつは鋼鉄製だ。普段は十数名が力を込めてようやく取り外しができるものだ。大牙とはいえ、持ち上げられまい。この間に奴らを包囲してしまえ」

冷静さを取り戻した指揮官の一言で敵兵は我に返り、キリルとイゴールを取り囲もうとしたそのとき――――


「ウガアアアアアア」

二体は叫び声と共に鋼鉄製の閂を取り外し、周りに投げつける。閂は敵兵の体を切り裂きながら、血飛沫と共に地面へと突き刺さる。


そして、誇示するように砦全体に響き渡るような大声で叫んだ。

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