3.1.17 要塞戦 開門
――王国歴 300年 夏 ザルトビア要塞 午後
キリルとイゴールが城壁から飛び降り地面へ着地した頃、二手に分かれたジレンとシルバは傷痍軍人と共に城門の両脇にある機関室へ到着していた。
《おい、ジレン、西側の機関室は制圧完了だ。いつでも動かせるぞ。そっちは?》
《東側は先ほど警備兵を倒したところだ。傷痍軍人が歯車を回す準備を急いでいる。しかし、ずいぶん揺れたな》
《事前に伝えられた話からすると大牙が飛び降りた音だろう。地面で潰れてなければ、そのうち連絡が来るだろうよ》
二人の鬼人と傷痍軍人は要塞の中央付近にある救護室へ担架で運ばれた。衛生兵から回復魔法を受け、簡易ベットでしばらく大人しくしていると、敵襲を知らせる鐘が鳴り響く。敵兵が慌ただしく駆け回る中、二手に分かれ、地図を頼りに機関室を探した。敵兵は混乱しているせいか、機関室を守る警備兵も少なく、容易に制圧することができた。
ジレンは魔眼を長時間使用したため頭痛と眩暈に襲われ、機関室の扉を内側から閉めると倒れるように座り込む。目の前には血まみれの包帯を巻いた傷痍軍人たちが、手で、手がなければ腕で、腕がないものは足で、共にないものは歯で、歯車を回す取っ手を掴んでいる。彼らは全員必死の形相だ。負傷兵を演じるため自ら古傷を開いて血だらけの彼らは、痛みと気力だけで意識を保っているのだろう。
(さっさと退役すればいいのに。こんなくだらない戦争で死んで何の意味があるんだ……)
ジレンは、得体のしれない生き物を見るかのような目で彼らを見つめていた。
《小隊長だ。念話が聞こえたら返事をしてくれ》
ザエラの念話が聞こえるとジレンは東西の機関室を制圧したことを伝える。
《そうか、よくやったな。こちらも内扉の
二人の鬼人が傷痍軍人に合図を送ると、彼らは歯車の取っ手を一斉に回し始めた。
◇ ◇ ◇ ◇
「よ、要塞の扉が開くぞ!? 機関室はどうなっている?」
「機関室は内側から施錠されています。既に占拠されているようです」
敵兵は機関室が奪われたことを知り、愕然とする。
二体の大牙が要塞の扉がゆっくりと確実に開いく。敵兵は果敢に大牙に立ち向かうが、悉く叩き潰され、扉が開くのを阻止できないでいた。
完全に扉が開くと、オルガ隊が城壁上で自国の旗を振り、第十三旅団に合図を送る。
《扉が完全に開いた。これから第十三旅団が要塞を強襲する。ご苦労だった》
ザエラからジレンとシルバに開門成功が念話で伝えられた。
「おい、お前ら、扉が開いたらしいぞ、もう止めていいぞ」
ジレンの声を聴くと、傷痍軍人たちはバタバタと気を失い倒れて行く。
「ふう、俺も一眠りしておこう」
ジレンも壁に背を持たれたまま、気を失った。
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