3.1.15 要塞戦 午後
――王国歴 300年 夏 ザルトビア要塞前 グロスター家本陣 午後
ベルナール公と雷槌隊は前線から本陣へと帰還し、昼食を終えたところだ。将官たちはベルナール公を取り囲むように集まり、午前の武功を称えながら談笑に興じる。
笑い声が響く中、グリッドが青ざめた顔でベルナール公の前に現れた。
「若君様、申し訳ございません。野営地への強襲に失敗しました」
彼は声を震わせ、瞳からは涙が零れ落ちる。
将官達は静まり返り、グリッドのすすり泣く声のみが聞こえる。
「わははは、我々は敵の一旅団の敵将と五千の兵士を倒した。強襲部隊の失敗などで傾く神の天秤ではないわ」
気まずい雰囲気を吹き飛ばすようにベルナール公は大声で笑う。取り巻きの将兵達も彼に合わせて笑い始めた。
「さて、休憩は終わりだ。次に狙うは中央の第七旅団長の首だ。本日中にすべての敵将を打ち取り、敵軍を総退却させるぞ」
ベルナール公は立ち上がると従者に命じて鎧を身に着け始める。
◇ ◇ ◇ ◇
戦場へ向かう準備が慌ただしく進む中、グリッドは一人立ち尽くす。ベルナール公は彼に歩み寄り、人目を憚らず熱い口付けを交わす。
「このような些細なことで、お主との絆は揺るがぬ。隣にて若き雷獅子の活躍を目に焼き付けるがよい。……今夜は眠らせぬぞ」
「寛大なご配慮ありがとうございます。愛しい貴方のお傍に居られるだけで某は幸せでございます」
グリッドは潤んだ瞳でベルナール公を見つめた。
――イストマル王国 第七旅団本陣
ベルナール公と雷槌隊の再進撃は、第七旅団の伝達兵によりすぐに伝えられた。
「ベルナール公が前線に来ました。雷槌隊を率いています」
「昼食後に出陣か、優雅なものだ。こちらはパサパサの携帯食だけだというのに」
燻製肉を挟んだ乾燥したパンを両手で抑えて噛みちぎりながら、第七旅団長、ブルード少将は伝達兵の報告に不満を漏らす。
「その代わり、第五旅団の残兵を吸収して多層防御陣を構築する時間ができたがね」
残りのパンを口一杯に頬張り、手を叩く。
「右翼の第十三旅団から援軍は頼めそうか?」
「敵の予備兵五千と交戦しております。我が中央と右翼に楔を打ち込むかのように敵軍が展開しており、伝令兵を出せない状況です」
副官の報告にブルード少将は大げさに肩を落とす。
「この防具は魔法耐性に優れているが金属だからな、敵の雷魔法は防げまい。さらに、第十三旅団からの援軍も期待できない。こうなれば、レイセオン商会の試作兵器に賭けるしかないな。ベルナール公が近づいたら、すぐに本陣を移し逃げ回るぞ。試作兵器が試せる場面まで時間を稼げ」
ブルード少将は材質を確かめるように灰色の鎧を叩きながら周囲に指示を出す。
――――空高く太陽が昇る中、主戦場における第二回戦が幕を開けた。
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