2.1.18 十階 古代英霊(2)

――ザエラ六歳 夏 アニュゴンの街 郊外 地下迷宮 十階(続き)


(ふぅ、ギリギリ助かった。小剣を持ってきてよかった)

ミーシャは高速に繰り出される槍を小剣と鎖で捌きながら距離を保っている。


ラピスから正装で来るように伝えられた時は武器を持っていくべきか悩んでいたのだ。おそらく、これがなければ確実に胸を貫かれていた。


相手は槍使いだから懐に入って近接戦闘をしかければ勝機はあるかもしれない。近接戦闘の殴り合いはオルガとの訓練で慣れている。突然、不死者アンデットが叫び声を上げると周りに複数の魔石が漂い、こちらに向かい一斉に‟熱光線シューティング・フレア”が発動する。サーシャは仰け反りながら魔法を回避すると、不死者アンデットから離れる。


ミーシャは遠距離から‟岩弾丸ストーン・バレット”を敵に目掛けて発動する。不死者アンデットは槍で的確に岩を砕き、砕かれた岩は勢いを失い床に落ちる。 おそらく、槍に魔法解除ディスペルが付与されていて槍先に触れると魔法が解除されているようだ。


魔法防御の全方位防護フルレンジ・ディフェンスを常時展開し、魔石からの攻撃魔法に耐えながら不死者アンデットに向かい距離を詰める。


槍が喉元に突き出された瞬間、上半身を下げて股をすり抜ける。そこから腕を使って跳ね上がり不死者アンデットの首元へ両足を絡ませ、床に頭を叩きつける。仰向けに横たわる不死者アンデットに跨り、両腕を足で押さえつけて、拳で頭部を殴りつける。魔石からの攻撃魔法は激しさを増すが、‟魔法防御”で辛うじて防ぐ。‟浄化魔法プリフィケーション”を唱えるが効果は見られない。


『キエエエ』

不死者アンデットは叫ぶと眼帯がはらりと落ちる。瞼を開けると赤い目に魔法陣が浮かび上がる。思わず目を合わせてしまった……体が思うように動かない、肌の色が足の先から徐々に岩のように変わっていく……石化だ。


何とか腕を動かそうとすると、突然、背中から胸に熱いものが突き刺さる。赤い槍に赤い血が流れる…魔力糸で操作しているのだろう。


ミーシャは体の石化が進み、槍に突き刺された胸から血が流れていても落ち着ていた。石化は防げないが、ザエラがくれた腕輪で持続再生が効いており、また、体内の魔石と心臓部は背中の防具で守られているため、辛うじて槍は急所を外している。


左手では槍を握り抜かれないよう力を入れながら、不死者アンデットのみぞおちを硬化させた糸で切り裂き、中に右手をねじ込む。不死者アンデットは首を横に振りながら叫び声を上げる。指に硬いものが触れた、不死者アンデットの魔石だ。息を深く吸い込み、次の瞬間魔石を引きちぎる。


『ギャアア』

不死者アンデットは叫び声をあげて動かなくなった。空中の魔石は手の中にある魔石に吸収され消え、石化も解けている。


「お姉さま、しっかりして」

サーシャが駆け寄り、‟上級回復ハイヒール”を唱えながら槍を引き抜く。


「あら、サーシャは不死者アンデットはどうしたの?」

サーシャは、炎球ファイアーボール不死者アンデットを燃やしたこと、魔眼は目を逸らして防いだことを説明した。彼女の手にも不死者アンデットの魔石が握られている。


「……あなたは私よりも戦闘のセンスがあるのかもしれないわね」

ミーシャは平然とした佇まいのサーシャを見つめて呟いた。


(それにしても遠隔操作?の魔石といい、魔眼といい、私たちの上位種なのかしら…)

ミーシャは手のひらで赤く輝く魔石を見つめながら考えていた。


◇ ◇ ◇ ◇


僕の目の前には、瑠璃色の鎧を身にまとった人族ヒューマン不死者アンデットが拳闘士の構えで小刻みに体を揺らしている。僕と同じ赤髪で赤い眼をしている。


『シュッ』

間合いを詰めて拳を突き立てる。僕は防御しながらカウンターを狙う。お互いに強化魔法は掛けているが、攻撃魔法は使わずにただひたすらに、殴り、蹴り合う。


しばらくすると、不死者アンデットは寝台から百五十セルクはある長刀を持ち出し構えた。僕は千匹の蛇サウザント・スネークに魔力を流す。五股の鞭は五匹の蛇のように頭をもたげる。


『スパンッ』、最初の剣戟で二本の鞭がはねられ床に転がる。刀が当たると防御魔法が無効にされ、縄の部分が簡単に切断されてしまう。刀身に小さな魔法陣が点滅しているのが見える。魔法解除ディスペルが付与されているのだろう。魔法陣が透けて何層にも重なり、高度な技術で作られた魔剣のようだ。


続いて繰り出される剣戟は鞭の頭部にある刃で受けるが、剣筋が変則的に変わり、鞭の縄が切り落されていく。すぐに中央の一番太い鞭を残すのみとなる。


不死者アンデットの全身の魔力が魔剣に流れ込み、刀身が青く光る。次の一撃で仕留める気なのだろう。刀身が揺らぎ、複数の斬撃が青く跡を残しながら、こちらに向かう。


自動砲台オート・キャノン”+‟鳥落としバード・ストライク

鳥落としバード・ストライク”を剣筋に合わせて発動し、魔剣を腕ごとちぎり落とそうとするが、斬撃はそれより早く僕に届き、体全体から血が噴き出す。思わず膝をついた僕に、容赦なくとどめの一撃が振り下ろされる。


回転する蛇トルネード・スピン

僕は切り落とされた鞭の頭部を魔力糸で操りながら不死者アンデットの周りに配置しておき、とどめの一撃に意識が集中した一瞬を狙い、両腕と両足に頭部の刃を回転させながら切りつけた。両腕への刃は魔剣で薙ぎはらわれたが、両足への刃は骨を砕いた。


回復ヒールを自分にかけながら起き上がる。不死者アンデットは膝をついたままだが、長刀を握りしめ構えは崩していない。両足にめり込んだ刃は魔剣の柄で砕かれた。僕は、最後に残る一本の鞭に魔力を込め、不死者アンデットに振り下ろす。不死者アンデットは魔剣で縄を切り落とそうとするが、縄の中からはミスリルの刃が蛇腹状につながれた刀身が現れ、魔剣に絡まったまま、アンデットの首を落とした。


(中央の蛇の胴体にミスリルの刃を仕込んでおいて正解だったな…)

僕は大きく息を吐くと床に座り込む。


「ザエラ、大丈夫だった?」

アルケノイドの不死者アンデットを倒したミーシャとサーシャが駆け寄ってきた。どこに隠れていたのか、ラピスは人族ヒューマン不死者アンデットの首を抱きしめその場にうずくまる。


僕はラピスに抱きしめられた不死者アンデットの首に手を当てて唱えた。

魂の補食ソウル・イーター


(次話に続く)

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