2.1.6 慢心

――ザエラ五歳 夏 アニュゴンの街 郊外 地下迷宮


一階の門番ゲートキーパーを倒してから約二ヵ月後、四階に到着した。


二階では骸骨指揮官スケルトンコマンダーが指揮する隊列に遭遇した。組織的な攻撃を仕掛けてくるが、存在進化した前衛の前に砕け散る。また、門番ゲートキーパーの隊列に骸骨騎兵スケルトンナイト骸骨槍兵スケルトンスピアーが追加されたが難なく攻略した。三階は二階と同じだ。骸骨魔法戦士スケルトンメイジによる魔法攻撃を受けたのが唯一の違いだ。


サーシャとミーシャは土属性と風属性の中級魔法を習得した。魔力量も増えたが、長時間の戦いでは足りなくなる。そんなときは僕の出番だ。背中に両手を添えて手のひらから体内の魔石へ魔力を送ることで、供給時間を大幅に短縮した―‟急速充電ラピッド・チャージ”。二人によると、魔力供給を受ける間、体内の魔石が震え、痺れるような快感が全身に伝わるそうだ。


みんなが成長する中、僕の魔法は初級のままだ。唯一、魔力制御の熟練度が上がり、多重詠唱を習得した。なお、無詠唱スキルがあるので、多重詠唱でも詠唱は不要だ。

初級魔法と多重詠唱とを組み合わせた固有魔法を試行錯誤している。


三階を攻略した直後、アニュゴンの魔獣祭が開催された。魔獣の量は例年と変わらないそうだ。大量の不死者アンデットを倒し、魔石を回収した影響がでないとは……地下迷宮の魔力量は、僕の想像を遥かに超えているのだろう。


アニュゴンの魔獣祭の間、ギルドの食堂を手伝いながら、回収品を換金し、防具と武器、ポーションを購入した。これまでポーションを使う場面はなかったが、師匠に注意されて渋々準備した。


――ザエラ五歳 夏 アニュゴンの街 郊外 地下迷宮四階


「前方に一個小隊が来たよ」


カロルが偵察から戻る。彼は見取り図作成マッピングにも慣れ、俊敏さを生かして斥候までこなす。四階ではこれまでに出現した全種類の骸骨兵スケルトンから成る、二十体程度の小隊が出現する。


「おらあああ」、「うガアア」


前衛は、突撃してくる骸骨騎兵スケルトンナイトのランスをかわしながら、骸骨馬スケルトンホースの脚を薙ぎ払い、地面に横たわる骸骨騎兵スケルトンナイトの頭を砕く。


次にオルガを中心に右側にキリル、左側にイゴールで骸骨戦士スケルトンソルジャーに近接攻撃を加える。オルガは骸骨戦士スケルトンソルジャーの頭部を拳で砕く。彼女は斧槍ハルバートから籠手ナックルガードに切り替えた。 腕から手にかけての下地は僕の糸で編んだ布から作り、その上に投影魔法で籠手を生成する。動き易さを重視し、最低限の防具のみ身に着けているので、体の露出は多い。しかし、体内の魔力循環による身体強化の効果は高く、かすり傷さえ出来ない。


キリル、イゴールは、全身を鎧で固め、上半身を覆う程の盾と鉄の棍棒を装備する。二匹は身体強化を使えるが、オルガに比べると効果は低く、ダメージ軽減のため重装備を選択した。キリルの武具には火の魔輝石を、イゴールの武具には水の魔輝石をはめ込んだ。二匹を区別するためだ。


僕とミーシャ、サーシャは糸による立体移動で空中から骸骨弓戦士スケルトンアーチャー骸骨魔法戦士スケルトンメイジを攻撃する。立体移動の邪魔にならないように革の防具を身に着けている。


ミーシャ、サーシャは、光属性の中級魔法‟熱光線シューティング・フレア”で確実に各個撃破する。魔法攻撃や弓矢は部分的な防御魔法を展開して防ぐ。なお、二人は地下迷宮の狩りでは常に眼帯をつけている。


僕は千匹の蛇サウザント・スネークで複数の敵を攻撃していく。この五股に分かれた鞭はボールベアリングを使い改良を加えた。それぞれの先端には高速回転する刃と属性魔法の威力を上げるための六属性の魔石玉を取り付けた。


骸骨兵スケルトンの小隊は瞬く間に崩れ落ちる。組織的な部隊と戦うことで、僕たちの連携は格段に向上した。


「いいなあ、僕ももっと倒したかった……」


カロルは物足りないようだ。前衛が倒し損ねた敵にとどめを刺したり、負傷者にポーションを渡すことが彼の役目で戦う機会は限られる。彼はオルガと同じく投影魔法に目覚めた。投影した長槍の腕前を上げたいのだろう。


――――この時の僕たちはすべてが順調で自分たちの強さにうぬぼれていた。

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