2.1.5 錬金術師

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錬金術師アルケミスト


見習錬金術師アプレンティス・アルケミスト

修級錬金術師マスタ・アルケミスト

上級錬金術師シニア・アルケミスト

最上級錬金術師プリンシパル・アルケミスト


魔力で動作する魔道具およびポーションの研究開発および製造に携わる者。人族ヒューマンでは、職業ジョブとして習得可能で、加工・精錬技術に補正が付く。彼らは自ら発明した魔道具を商業ギルドに登録することで売り上げに応じて一定の利益を得ることができる。ただし、王国や商会の研究機関に所属すると魔道具の所有権は王国や商会に属するため、商業ギルドに登録はできない。そのため、個人で活動し、魔道具で一攫千金を狙う者たちが多い。

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――ザエラ五歳 春 アニュゴンの街 郊外 西部


なだらかな丘に見渡す限りの草原が広がる。西側の郊外に位置する未開拓地だ。


「普段は来ないけど、ここも僕らの土地なのですか?」

街長オサは草原を見ながらうなずく。


「この辺り一帯は川から離れていて農地に適さないから放置していたんだ。この草原を柵で囲って、家畜を放牧するのはどうだろう?」


「北側に森があるけど、魔獣に家畜が襲われたりしないでしょうか?」


「当番制にして街の住人とその眷族デビルスパイダーで監視するよ、街の外壁の警備と同じ要領さ。それに、飼育員が常駐するから何かあればすぐに知らせてくれるよ」


「それなら安心しました。これだけ広ければ何十頭も飼えそうですね」


「最初はザエラの二頭だけだけど、うまくいけば街として頭数を増やしていくつもりなんだ」


「頭数が増えれば、チーズとかヨーグルトとか試してみたいです。夢が広がります」


「ザエラは未成人だから当番に参加してなくていいが、その代わりに乳や肉など村に分けてもらえないかな?」


「もちろん大丈夫です。ただ、屠殺するのはしばらく先になると思いますが」


街長オサは草原から吹く風で髪が口に入るのを払いながら微笑んだ。


「ザエラが始めた、人族ヒューマンの野菜や薬草の栽培、鳥の飼育は着実に広がっているよ。街の集まりでは、料理のレシピをみんなで話すようになった。 みんな楽しそうだ。食事一つで変わるものなのね」


「さて、私は柵の打つ場所を確認してくるよ。ザエラはどうする」


「僕は畑に寄って帰ります。 今日はありがとうございました」

街長オサに会釈をして、僕は畑に続く道を南へ下る。


街の集まりで彼女が卵料理を振舞い、そのおいしさに感動した住人が鳥の飼育を始めた。僕と街長オサの家で孵化させた鳥を渡しているが間にあわない。今では抽選会を開いている。


(商人から買う人もいるらしい。 ぼったくられなければいいけど…)


街の畑が見えてきた。 この一年で辺り一面がカラフルに色付いた。黒麦ライムギ馬鈴薯ジャガイモ甘藍キャベツの色に、赤茄子トマトの赤、玉蜀黍トウモロコシの黄、紫白菜トレビスの紫が加わる。また、魔力を循環する薬草も体調が悪いときに煎じて飲むとよく効くそうで、みんな植えている。我が家でも、義兄弟に加えて、母さんも飲み始めた。


街長オサが師匠と相談して商人から苗を大量購入し、街の住人に配布したそうだ。僕の知らない野菜もある。僕も 後で苗を分けてもらおう。


家の畑に到着した。 これまでの畑に加えて、もう一つ同じ広さの畑を街から借りた。喰いぶちが増えたのと、野菜だけでなく果物も植えたいからだ。梨、檸檬レモン蜜柑ミカン、栗を苗木から育てている。 実がなるまでには数年かかるが楽しみだ。


「おーい、ザエ兄、肥料まきと草取り終わったよ」

「オルガ、みんな、おつかれさま、僕も手伝うよ」

義兄妹たちが集まり休憩している場所へ僕も合流した。ラピスは背中から飛び降りると畑の中へと消えた。


――ギルド二階 作業室


ザエラたちは師匠から魔道具作成の実習を受けていた。


「ほら、ザエラ、もっと丁寧に魔石を削らんかい。 削り過ぎじゃ。ミーシャとサーシャは、全然、魔石が削れていないぞ、魔力の波長を合わせるんじゃ。カルロはその調子じゃ、きれいに削れておる」

師匠から熱い叱責が飛ぶ。今日の師匠はいつも以上に熱い。


師匠の指導を受けながら、魔道具作成の基礎となる魔石の加工に取り組んでいた。しかし、ミーシャは魔石をうまく削れず、半ば諦めたようにため息を付く。


「魔道具は錬金術師アルケミストが作るものよね?私たちが覚える必要はあるのかしら?」

ミーシャがつまらなそうに文句を言う。


「ばかもん、ザエラ、教えてやるんじゃ」


「えーと、『戦場で戦が始まると何日も殺し合いが続くんじゃ。武器や防具などの魔道具が壊れてしまうと、すぐに死んでしまうぞ。そんな大事なものを、他人任せにしてはならんのじゃ』でしたよね」


「口調まで真似しなくてもよいがの。 そういうことじゃ。そもそも、魔法を使う者なら、魔道具ぐらい作れて当然じゃ。なにより魔道具作成には夢があるぞ、というのも……」


「師匠、魔石削るの楽しい」

魔道具への熱い思いを語る師匠へカロルが笑顔で声を掛ける。


「そうか、そうか、カロルは筋がいいな」

師匠はカロルを撫でる。


オルガ、キリル、イゴールは部屋の片隅で組手をしながら時々こちらを伺う。魔力制御が苦手なため実習は免除されているが、気になるようだ。


「師匠、いつも以上に気合が入ってますね。魔道具作成が趣味なんですか?」

僕はいつになく熱心な師匠を不思議に感じ、その理由を聞いてみた。


「こう見えても最上級錬金術師プリンシパル・アルケミストだからな」

師匠は自信満々に話すが、僕たちには凄さがわからない。


「師匠は魔導士ではないのですか?」

むしろ僕は師匠の職業ジョブが魔導士ではないことに驚いていた。


「魔導士は副職業セカンド・ジョブじゃ、大したことはない」

師匠はめんどくさそうに答える。


(副職業とはなんだろう……師匠は意外とすごい人なのかもしれない)

僕は師匠について何も知らないことに改めて気づかされた。


「それはそうと、ザエラはどうしたんじゃ、削り過ぎじゃ、魔石が丸くなっとる」

師匠はしゃがみ込むと僕が削りだした球体の魔石を指さす。


「ああ、これはですね、大きな金属の輪と小さな金属の輪の間にはめ込む丸い魔石です。丸い魔石を等間隔にはめ込んだ状態で小さな金属の輪の中に軸を入れて魔力を流すと、軸が風魔法により摩擦なく高速に回転するか試したいのです。もちろん、魔石には小さな浮遊魔法陣と硬化魔法陣を刻みます。ボールベアリングの考え方です」

僕は設計図を開いて師匠に説明する。


「摩擦……、ボールベアリング……、なんのことじゃ?」

師匠は目を点にして僕に質問する。


「あれ?、本で読んだことを思い出したのですが……」

と言いながら、僕は本の題名を思い出すことができないでいた。


「まあ、できたら見せておくれ。 わしの研究に使えるかもしれんでな」

師匠は僕が書いた設計図を見つめながら呟いた。

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