2.1.4 手工業ギルド

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

‟手工業ギルド”

国内のみならず他国との貿易で富を蓄えた大商人により組織された商人ギルドは、王権、貴族に接近して特権集団として自らの利権養護を企てた。 これに反発した手工業者たちは、職業別に手工業ギルドを結成し、商業ギルドに対抗するようになる。


製品の品質・規格・価格などは厳しくギルド内で統制されている。また、販売については独占的な権利を有することで、自分たちの利益の保護を可能とする。


紅雲織コウウンシキ

アルケノイドが自分たちの糸で編んだ布のこと。軽量でありながら強靭で、魔素伝導率も高く、主に防具に用いられる。彼らしか編めないことから希少であり、市場では高値で取引される。


‟アルケノイド自治区”

アニュゴンの街と周辺の村に住むアルケノイドは王国から自治が認められている。街長オサは自治区の代表を兼ねており、街長オサとその一族には戸籍が与えられる。それ以外の住人は戸籍を持たず、彼らが税金をまとめて支払う。なお、この街にあるギルドと関連施設は、敷地も含めて自治区ではなく王国に属する。

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~


――ザエラ五歳 春 アニュゴンの街 ギルド二階 執務室


「今回の買取分の代金となります。ご確認ください」


目の前にいる商人が金貨、銀貨、銅貨、小銅貨を木の板の上に積み、テーブルの上を滑らせてこちらに寄越す。僕は硬貨を手に取り数える。金貨百枚、銀貨二百五十枚、銅貨五百枚、小銅貨百枚、最高の稼ぎだ。金貨一枚は銀貨十枚に相当するが、使い勝手のよい銀貨を多めにもらう。


「今回は量もさることながら、いつもより魔石の等級が高く、骨も良質でした。さらに、鉄製の武器に高値が付きました」


これが地下迷宮一階の門番ゲートキーパーの部屋で延々と骸骨兵スケルトンを狩り続けた成果だ。ギルドでの買い取りだと仲介料を取られるので、師匠が親交のある商人を紹介してくれた。これまでも近くに来たついでに街を訪れていたそうだ。


「今回はえらい稼ぎじゃのお、なにか欲しいものはあるのか?商人に依頼したらすぐに手配してくれるぞ」


「家畜の白毛牛フォルワカウが欲しいのですが、そちらから買うことはできますか?」

師匠の誘いに乗り、思い切って聞いてみた。


白毛牛フォルワカウでしたら輸送費も含めて一頭当たり金貨六十枚です。 先ほどお渡しした買取金額では二頭を購入できますが、放牧地のご準備はできていますか?また、世話の仕方をご存知ないなら、飼育員を雇わないといけませんね」


(放牧地や飼育まで考えていなかった。また、今度にしよう)


僕が断ろうと声に出し掛けたとき、

「そこは街で考えるから購入してごらん」

街長オサが僕に声を掛ける。彼女は商人と話がしたいと同席していた。


僕は気を取り直して話を続ける。

「ここで購入手続きをしたら、街に届くのはいつ頃ですか?」


「おそらく二ヵ月後になると思います。また、追加でご依頼いただければ、すぐに熟練の飼育員をご手配します」


街長オサに教えてもらいながら購入手続きまで完了した。 受取金額の大半は商人へ戻したが、念願の家畜が手に入ると思うと感慨深い。


「ザエラ、ギルド長と商人の方にお話があるので、席を外してもらっていいかな」

僕は挨拶をして出て行った。


◇ ◇ ◇ ◇


街長オサはザエラが出て行ったことを確認して、相談を始めた。

「実はこの街に紅雲織コウウンシキの手工業ギルドを立ち上げようと考えています。周辺の村の村長にも話をしていて、おおむね了解をいただいています」


「ほお、それはなんとも思い切ったことじゃな。 代表はだれがやるんじゃ」

「王国の戸籍を持っている私と私の娘達です」


商人は街長オサの話を聞くと丁寧な口調で話し始めた。

「手工業ギルドを立ち上げるのは良いお考えかと存じます。しかし、手続きが煩雑でございますし、人族ヒューマンとの交渉が必要となります。差し支えなければ、背景をお聞かせいただけないでしょうか?」


「我々は算術に疎く、商人に安く買いたたかれることが多々あります。また、若くて未熟なものが編んだ布が混じると品質が下がり、全体の販売価格に影響すると聞きました。私は、手工業ギルドを立ち上げることで、品質の良いものを一定の価格で安定して供給することで、自分たちの利益を保護したいと考えています」


街長オサはザエラや娘たちから人族ヒューマンの進んだ知識に触れて危機感を募らせていた。このままでは、古から同じ生活をしている自分達が取り残され、排除されてしまうのではないかと。彼らから新しい知識を取り入れ、街に投資するための収入源を得ることを考えていたのだ。


「高品質な紅雲織コウウンシキを安定的に供給いただけるのであれば、我々、商人にも利がある話です。アルケノイドの皆様は、お金に頓着がなく、積極的に提供しようとされませんので……ところで、卸先の商人はどのように決めるおつもりですか?」


「入札を行いたいと考えていますが、我々には知識も経験もありません。そこで、大手の商会に取りまとめをお願いしようと考えております」


商人は、目を見開くと前かがみになり、小声で囁く。

「今日、その話をされたということは、我々にも機会チャンスはございますか?」

「もちろん、そのつもりで話しております」


「それでは、これより急いで当商会の会長にお話をしてきます」

商人は丁寧に挨拶をすると、颯爽と退出する。


「思ったより順調にいきましたわね」

「そうじゃの、肩の荷が下りたわ」


街長オサは娘たちの様子をギルドに見に行くことを口実にギルド長と相談を重ねてきた。街の今後を憂う彼女の思いに、ギルド長も心動かされたのだ。ギルド長が赴任して十数年が経つが、アルケノイドから相談を受けたのは初めてだ。ザエラとの出会いから始まる交流に不思議な縁を感じていた。


「これから始まりますわ、今後ともよろしくお願いします」

二人はお茶を飲みながら今後の街の発展について話し始めた。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る