2.1.3 兄としての矜持

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”ゴブリン"

森の洞窟や廃墟など人里から離れたところに住む魔人。人族ヒューマンを襲い、食糧、金品、女性をさらうことから敵性魔人に分類されている。特に繁殖のために人族ヒューマンの女性をさらうため、彼らから忌み嫌われている。


十数から数十匹の群れを作って生活し、知能は人族ヒューマンの子供程度とされている。ただし、高度な集団行動をとるため、名のある冒険者たちが返り討ちにあう事例も報告されている。ゴブリンの進化は、個の能力的進化と組織内の役割的進化の二種類が存在する。ホブゴブリンまでは共通で、役割的進化としてはゴブリンコマンダー、ゴブリンキングなど。能力的進化としては、ゴブリンマジシャン、ゴブリンシャーマン、オーガなど。


両方の進化が並行して発生し、個々の高い能力と強固な組織力を持つ群れは、軍隊に匹敵すると言われている。また、個の能力的進化が進むと、他の種族へと種族間進化が発生する。種族間進化では、進化先の種族に合わせて外見が変化し、知能も高くなる。さらに、進化先の種族のスキルを追加で取得するため、進化先の種族よりも優れた個体となる。ただし、種族間進化は非常にまれで、王国内においても過去に数例の報告しかない。

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――地下迷宮の一階の門番を倒した次の日


目を覚ました僕はあくびをしながら階段を下りる。水がめから手桶で水をすくい、顔を洗い、口をゆすいだ後、台所で朝食を用意する母さんを手伝う。みんなで何往復もして運んだ骸骨兵スケルトンの魔石や骨、剣などの武器を頭の中で値踏みしながら、手際よく料理を作る。


大量の回収品は一階の倉庫に入れてある。昨年、裏の空き地を譲り受けて家を増築した。二階、三階は一部屋づつ増え、オルガとカロル、キリルとイゴールの部屋ができた。一階は台所と居間を拡げて、余りを風呂場と倉庫として使う。庭の鳥小屋も大きくなり、鳥は数十羽に増えた。


しばらくすると、オルガとカロルが階段を下りてきた。「おはよう」と挨拶しながら両手を挙げて背伸びし肩を叩く。昨日の疲れが取れていないようだ。


「なんだ、キルトとイゴールはまだ寝ているのか。おーい、二匹とも起きろよ。朝飯ぜんぶ食べてしまうぞ」


二匹がいないことに気づいたオルガは階段から二階に呼びかける。そして、朝食が並び始めた食卓の椅子に腰かけた瞬間、「バキッ」という音と共に床に転げおちた。


「痛ったあぁ、なんだこれ、椅子の脚が折れてる」

「オルガ、大丈夫、ケガしてない?」


僕らが笑う中、母さんがオルガに手を差し伸べようとしたとき、「ゴトガタゴト」と階段からゴブリン二匹が勢いよく転がり落ちてきた。


「い、いタイ……、あ、かアチャン、ネエちゃん、ニイちゃん、ザえら、おハヨウ」

僕らは目を見開いてキリルとイゴールを見つめた。


二匹はホブゴブリンに存在進化していた。身長は僕と同じか少し高いくらい。 髪が生え、外見は人族ヒューマンに近づいた。カタコトだが言葉も喋る。漂う雰囲気から威圧感さえ感じられる。


(もしかしたら、オルガにも何か変化が現れたのかもしれない)

僕は彼女を持ち上げた。


「お、重たい、腹が減って石でも食べたの?」

「そんなことするわけないだろ」


オルガは持ち上げられても恥ずかしがることなく僕を肘で小突く。彼女の見た目は変わらないが、石像のように重たい。おそらくオルガのが存在進化し、肉体の質が変化したのだろう。


(瞳の形が少し変わった気もするけど、はっきりとは分からないな)

僕らは朝食を手早く済ますと師匠に会うため急いでギルドへと向かう。


――ギルド訓練場


「ほお、二匹とも大きくなったのう。ずいぶんと逞しくなった。オルガも二匹と同じように身に纏う魔力の質が変わり威圧感がましておる。ふむ、瞳孔が縦に長くなっておるが、これぐらいなら魔人と疑われることもあるまい」


師匠は存在進化した二匹と一人をじっくりと調べる。


「ムキムキだ、触ってもいい?」

ミーシャとサーシャが細いしなやかな指で二匹の二の腕や太腿を触る。


「オルガ、何でもいいから武器を投影してごらん」

オルガの右手に漆黒の斧槍ハルバートが現れ、それを両手で振り回し始めた。師匠によると、心に思い描くものを魔力で実体化する投影魔法の一種ということだ。魔術紋様で継承される特殊なものらしい。訓練中に無意識に発動したそうで、血が覚えているということだろうか。


斧槍ハルバートの質感がさらに増したなあ、ええこっちゃ」

背中からラピスが飛び降りると、師匠の話を遮り、オルガと組手を始めた。


「ザえら、オレとタタかってホしい」

僕の前に二匹が立ち塞がる。


「長兄に向かって呼び捨てとは聞きずてならないね、いいよ二人でかかっておいで」


盾と棍棒という普段の装備で僕に襲い掛かる。僕が避けた棍棒が地面に当たると、その衝撃で土が大きくえぐれ穴ができる……威力は以前より増しており、まともにもらうと気を失いそうだ。とはいえ、遠距離からの魔法攻撃だと兄としての矜持に欠ける。ここは僕の素早さを生かした近接戦でどちらが強いかを体に覚えてもらおう。


彼らの攻撃を避けながら、みぞおちに拳による打撃を重ねる。 拳には物理防御魔法を施しているが、まるで石を殴打したような衝撃がジンジンと骨に伝わる。どうやら、二匹は無意識のうちに身体強化魔法を発動させているようだ。


衝撃による痛みが限界に近づいたころ、ようやく二匹の両腕が下がる。すかさず顔に拳を当てる。十数発殴ったところで崩れ落ちた。


「息が詰まる戦いだったわね、私興奮しちゃった」

ミーシャとサーシャが声を弾ませて叫ぶ。


「ホブゴブリンは超再生の持ちじゃ、明日には二匹ともぴんぴんしておるはずじゃ」


師匠は喋りながら、仰向けに伸びる二匹の腰布を引き上げてじっと見つめる。

「ザエラ、お前も頑張らんと抜かされてしまうぞ、あっちも存在進化しとるぞっ」


(言うと思った……)


その後、みんなで組手をしたが進化組の身体能力は進化前の数倍に向上していた。また、ミーシャとサーシャは魔力量増加と魔法威力の向上を実感できたそうだ。師匠によると、敵を倒すことで得た、女神の祝福ブレスによる恩恵とのことだ。


しかし、僕は相変わらず初級の属性魔法しか使えず、魔法威力も変わらない。


( 女神の祝福ブレスが足りないのかな……残念だ。僕も存在進化したいけど、そもそもアルケノイドは存在進化するのだろうか?今度、街長オサに聞いてみよう)

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