2.1.2 一階 門番との戦い

――ザエラ五歳 春 アニュゴンの街 近郊 地下迷宮


「獅子が描かれた扉……門番ゲートキーパーがいる部屋の入口に着いたみたいだね」

ひたすら不死者アンデットを狩り続けて、約二か月、目の前に大きな扉が立ちはだかる。迷子にならずここまでこれたのは、カロルが描いた見取り図のおかげだ。


カロルは記憶した見取り図を休憩中に羊皮紙に描き写す。元々、手先が器用で、折り紙や絵を描くのが得意だ。さらに動きが俊敏なため、見取り図の描き方だけでなく罠設置や解除なども師匠から学んでいる。


「これで一階はほぼ調査済みかな。 カロル、見取り図を見せて」

カロルは両手で羊皮紙を広げた。図面一杯に通路や小部屋が描き込まれている。未調査のところはなさそうだ。よく見ると、出現する不死者アンデットの種類や数も書かれている。


「細かく丁寧に書いてあるわね、頑張ったわね」

ミーシャがカロルの頭を撫ると嬉しそうにはにかむ。冒険者たちが描いた見取り図や門番ゲートキーパーの情報がギルドにあるらしいが、僕たちは見ていない。実践を意識して、自分たちで情報を集めながら地下迷宮を攻略するつもりだ。


「今日はこれで終わりにして、明日、門番ゲートキーパーに挑戦しよう」

大量に入手した魔石と骨を担ぎながら、一階の石像まで引き上げた。


――翌日


僕らは扉の入り口に集合した。みんな普段とは違う防具を装備している。


「お嬢、その眼帯は何?」

オルガの視線は眼帯で目を覆うミーシャとサーシャに向けられた。


「眼帯で目を覆うと、額にある六つの触眼が敏感になって、物体認識と空間把握の能力が高まるの。だから、舞踊や狩猟の練習ではいつも目を覆っているのよ」


眼帯の上にある六つの水晶のような球が、いつもより紅く輝いて見える。面長で整った顔つきの街長オサに似てきた二人からは、妖艶な大人の雰囲気さえ感じられる。


「目は見えないけど、オルガ達が手に盾を持っているのが分かるわ。細かな魔力の流れを感じるから、きっとザエラの糸を使った盾ね。 違うかしら?」

「よくわかるね、正解だよ」


この日のために僕の糸で編んだ布を何重にも重ねた盾を前衛に渡している。布の重ね方を工夫することで盾への衝撃をうまく分散できるようにしている。さらに、魔力を流すと、強度が増し、かつ、ある程度の自己修復もできる優れものだ。


「そろそろ扉を開くよ」

「次は私たちの装備も作ってね」

おねだりをするお嬢様たちに頷きながら扉を開く。


僕たちが部屋に入ると扉は静かに閉まる。 内側から扉を押してみたがビクともしない。目の前には、大量の骸骨戦士スケルトンソルジャーと後衛には骸骨弓戦士スケルトンアーチャー、その奥には骸骨指揮官スケルトンコマンダーが隊列を組んで整列している。骸骨指揮官スケルトンコマンダーが剣を振り上げると、骸骨戦士スケルトンソルジャーが一斉に前進してきた。 骸骨指揮官スケルトンコマンダーがこの隊の指揮官なのだろう。


前衛は盾で骸骨戦士スケルトンソルジャーの剣を受け止めながら、片っ端から叩きつぶす。後衛は後方で光魔法‟閃光シャイニング”を唱えて、前方の敵を間引く。カロルは、後衛の護衛をしながら、弓矢を放つ。なお、ラピスは僕の背中で丸くなり動こうとしない。地下迷宮に来るといつも大人しくなる、不思議だ。


僕は千匹の蛇サウザント・スネーク骸骨弓戦士スケルトンアーチャーの弓を払いながら、前衛の壁をすり抜けた骸骨戦士スケルトンソルジャーを倒す。また、後衛の魔力が切れそうになると、二人の元に駆け寄り魔力を供給する。


一時間近く攻撃を続けたが、骸骨戦士スケルトンソルジャーは一向に減る気配がない。僕は壁を駆け上がり天井にぶら下がる。部屋の奥で骸骨指揮官スケルトンコマンダー骸骨戦士スケルトンソルジャーを召喚しているのが見える。いくら倒しても減らないわけだ。


床には普段より質の良い魔石、骨、長剣、弓が転がる――――これは稼ぎどきだ、僕たちの体力が続く限り狩り続けなくては。神の祝福ブレスも溜まることだし。


「みんな、体力の限界まで狩り続けるよ、頑張ろう」


それから数時間、交代で休みながら狩りを続けた。


「ザエラ、お腹減ったから、帰ってご飯食べたい」

「ザエ兄、時々意識が飛んでしまう……そろそろ限界だ」

「ギィイイ(オマエ、イツモヒトヅカイアライ)」


「では、おしまいにするね」

僕は天井に駆け上がり、骸骨指揮官スケルトンコマンダーの頭上目掛けて土魔法‟岩弾丸ストーン・バレット”を打ち込む。骸骨指揮官スケルトンコマンダーの頭蓋骨は砕け、体が崩れ落ちる。残りの敵を倒すと、辺りはようやく静かになった。


「いつ見ても痛そうだ、兄さんの魔法は」

「ふう、いっぱい倒して疲れたけど楽しかった。 一階は楽勝だったな、ザエ兄」

「ギィ、ギャ(オマエ、イイトコトルナ)」

(なんだか、さきほどから敵意を感じるけど……気のせいかな)


「そうだね、オルガ、みんなお疲れ様。 カルロ、袋をみんなに配って。床に落ちている、魔石と骨と武器を残さず回収しよう。大変だけど頑張ろうね……」

床に積みあがっているそれを見て、みんなげんなりした。

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