1.15 血に刻まれた魔法
――ザエラが人族を倒した時にさかのぼる
俺は意識を取り戻した。赤髪の小僧の魔法が発動し、俺は渦の中に飲み込まれ砕けた……俺の魂は、記憶と共に死を実感している。
俺の魂はゆらゆらと空中を漂っているようだ。下方には柔らかい土が盛り上がり、その上に座る小僧の姿が見える。小さな蜘蛛も奴の背中に張り付いている。
小僧が俺に向かい手を出して何かを唱えた。俺は抗うこともできず、その手の中に飲み込まれた。
◇ ◇ ◇ ◇
暗闇の中で俺は押しつぶされそうだ。その中から何者かが俺に問いかける。
「どうしてゴブリンや人族の子供たちを襲ったんだ?答えろ」
圧倒的な支配者からの命令。俺はおびえながら敬語で話し始めた。
「こ、答えます。どうかお許しください。私は、ハフトブルク家の長男%&#様のお抱えの冒険者です。ハフトブルク家は、先祖代々魔法の才能をお持ちで、魔術紋様による血族魔法を受け継いでいます。ご主人様には、二人の妹君がいまして、皆さん幸せに暮らしていました。
しかし、末の妹君に類まれな魔法の才能が開花しました。血の滲むような研鑽に上で生まれる魔法の才能こそが、貴族の資格として最も重要視されます。そのため、当主様は、彼女に養子をとらせ、家禄を継がせること考えるようになりました。
ご主人様は、軍事学校に通い、貴族としての使命を全うしようと努力されていた矢先でした。一見、妹君とは仲がよさそうでしたが、実のところは、彼女を嫉妬し、深く憎んでいたようでした。
この森の近くで、妹君の馬車を襲い、彼女を森の中へ追い込み、魔物に殺されたように偽装する計画を聞いたとき、これまで裏の仕事をしていた私でも背筋が凍りました。私は裏稼業専門の冒険者に声を掛け、実行しました。馬車を襲い、森の中に追い込んだところまでは良かったのですが、目を離した隙にゴブリンに妹君がさらわれてしまいました。そのことを、ご主人様に報告すると、怒るどころか笑いだして、そのままにしておくように言われました。おそらくは、妹君が惨めな扱いを受け、自ら命を絶つことを望んでいたのかもしれません……
私は、ゴブリンの足跡から巣を見つけ、定期的に巣の様子を観察しました。半年もすると、人族の子供が幼いゴブリンたちに混り、洞窟の外で遊ぶのを見かけるようになりました。私は栗色の髪色から妹君とゴブリンとの間に生まれた子供であることを直観しました。
ご主人様は、表向きは捜索隊を組織し、率先して妹君を探しました。これは、疑われないようにするためと当主様が勝手に捜査しないようにするためでした。当然、姫君は見つからず、当主様はおやつれになり、ふさぎ込む日々が続きました。当主様は公務をこなせなくなり、ご主人様が当主代理として実権を握るようになりました」
「話が長いな早くしろ」
「すみません、もう少しです。魔人と人族の混血は珍しく、高値で取引されることを知っていました。私は姫君とゴブリンとの混血の子供を手に入れて、売りさばきたいと考えるようになりました。そこで、差出人不明で、ゴブリンの巣に姫君が捕らわれていることを当主様にお伝えしたのです。当主様は大喜びで、急いでギルドにゴブリンの巣から姫君を救う
私は、冒険者たちがゴブリンの巣へ突撃する前に気配を消して先回りし、妹君を殺しました。そして、子供たちを見つけ、事前に調べていた別の出口から逃がしたのです。冒険者に見つからないように、洞窟から離れてから、ゴブリンを殺して子供をさらうつもりでした」
「そんなことのために……お前には罪の意識はないのか?」
「罪の意識?特にありません。もう一息のところで邪魔をされて、悔しくてたまりません」
「……ならば、わが身の糧となりその罪を償え」
暗い闇が俺を侵食し喰らい始める。これでようやく解放され……るの……か。
◇ ◇ ◇ ◇
人族とは欲深い……僕は溜息をついた。彼の魂から事件の真相を聞き、僕はいたたまれない気持ちに包まれた。当面、子供たちには伝えないでおこう。お互いに成長したら話せる時期が来るかもしれない。
また、彼の話に出ていた‟魔術紋様”、‟血族魔法”という言葉が気になる。背中にある魔力回路に関係する話だろうか。さりげなく師匠に聞いてみよう。
他人の魂と会話し、魂を吸収することのできる能力、二歳の病気のときに目覚めた能力と関係するかもしれない。
――あの時、「ブチッ」という音の後に背中全体に痺れを感じ、気を失ったが、気づくと僕は空中をふわふわ飛んでいた。見下ろすと、師匠や母さんの姿はなく、ベットに横たわる僕の身体が目に入る。
「助け……て……くれ……」
辺りから苦しそうな声が聞こえる……一人だけではない。頭の中に大合唱のように叫びが聞こえ、僕は頭を抱えて耐えるのが精一杯だ。
「食べればいい。こんなふうに、吸い尽くして食べてしまえ。‟
僕の身体は腕を上げると手をこちらに向け、魔法を唱える。まるで別人のようだ。
突然、僕の意識は手の中に吸い込まれ、辺りは暗い闇に覆われる。暗い闇に僕は溶かされて完全に意識を失う……
翌日、目覚めてから同じ出来事は起きていない。ただ、幼児が自ら喋り始め、立ち上がるように、その使い方を僕は知っている。
あの魔法を僕という意識が唱えたのは今回が初めてた。魂を食べた後のなんとも言えない後味の悪さがある。しかし、僕は何故この能力を使えるのか、そして、魂を喰らうとは何を意味するのか……解らないことだらけだ。
僕はふと思いつき、‟
僕は再び溜息をついて帰り支度を始めた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます