1.12 訓練仲間
――ザエラ三歳 ギルド訓練場
森の木の葉が赤く染まり、昼も薄暗く、肌寒さを感じる。ギルドの半地下の訓練場は、外の寒さも吹き飛ばすほど、僕と師匠(とラピス)の訓練で熱気を帯びている。
以前は、訓練の最初と最後に師匠が表れて、最初に今日の課題の説明をし、最後に訓練の成果を確認していた。基礎を習得した今では、週に一度、実践的な魔法訓練を師匠がつきっきりで教えてくれる。
四属性については未だ初級魔法しか使えない。そのため、膨大な魔力量を生かせる魔力制御を中心とした独自の魔法(固有魔法)と戦技(固有戦技)を考えてきた。
これまで発案した固有魔法と固有戦技は以下となる。ただし、神殿における登録審査を通過して初めて固有として認められるそうだ。既存で似たものがあるので、あまり期待しないほういいと師匠から釘を刺されている。
また、固有技能を持つことは大変名誉なことで、国家間による固有技能の開発競争、固有技能所有者の囲い込みが盛んだと師匠は話していた。
■固有魔法(仮)
自分の周り数メルクのあらゆる位置から魔法陣を展開する。発動する魔法を切り替えることで、様々な属性の攻撃および防御に活用できる。
自分の周りに球体の防護壁を発動させるもの。発動魔法により、物理防御、魔法防御を切り替えることができる。なお、これは、魔法の誘爆現象を利用したものだ。魔力の膜を作成し、防御魔法を一か所に発動させると、膜上に防御魔法が誘爆しながら広がる。その様はきれいではあるが、遅延が発生するため早めの発動が必要だ。
身体の表面に魔力を漂わせることで光の屈折率を変え、周囲の物体に色を合わせる。さらに、魔力の波長を変えることで、探査魔法の妨害も可能となる。
物質の内部を魔法により調べるもの。
生物の内部を魔法により調べるもの。
■固有戦技(仮)
魔力を流し込んだ糸を張り巡らせて、敵が通ると糸から魔法陣を展開し、攻撃を行う。なお、糸の魔力操作を事前に魔法陣で設定すれば、設置型の罠として使うこともできる。
アルケノイドの糸から作成した紐を何本も束ねた、先が分かれている鞭を使う。魔力制御を行うことで、あたかも千匹の蛇から攻撃されているような錯覚を与える(と勝手に期待している)。
立体感覚、魔力制御、糸生成をスキルとして備えるアルケノイドならではの魔法・戦技だろう。攻撃魔法については、魔力制御と魔法を組み合わせたものを考案中、もう少しで完成しそうだ。
師匠は、訓練用の魔導人形を操作し、僕の相手をする。師匠の額からは汗が流れおちる。魔力制御による操作は精神力だけでなく体力も使うようだ。ちなみにラピスも魔導人形と一緒に僕を攻撃してくる。魔導人形とラピスとの攻防で、僕も汗だくだ。
「よし、終わりじゃ、汗かいたわ」
師匠は座り、タオルで汗を拭いている。僕の糸で編んでプレゼントしたタオルだ。僕は水魔法で全身に水を浴びる。ラピスにも水を掛けてあげる。
「最近は森で修行しているようだが、女神の
「いえ、ラピスと訓練ばかりで、狩りをしていないので溜まりません……」
「どうしてじゃ、魔物や動物が怖いのかい?」
師匠は驚いたように僕を見つめた。
「
「そうか、ぼうずは真面目で優しい将軍になりそうじゃの。しかし、軍人であれば、自分の意に反する命令に従わざるおえない場面も出てくるじゃろう。なりたいもののために、やりたくないことをすることになっても、ぼうずは平気か?」
師匠は真面目な顔をして僕に問いかける。
「うーん、その時は師匠に相談するっ」
僕は濡れたまま師匠に抱きつく。質問をはぐらかしたことを心の中で謝りながら。
「必ず相談しておくれよ。……ぼうず、将軍には一番何が必要だと思う?」
師匠は僕を抱きしめ、背中をさすりながら改めて問いかける。
「敵をたくさん倒せる力かな?」
「それだけではだめじゃ。将軍になるには、力だけでなく、知識や礼儀や人間関係、すべてが求められる。わしがこれからみっちり教えてやるからの」
「うん、師匠よろしく」
僕は顔を上げ、師匠に笑顔を向けた。
――ギルド訓練場(後日)
午後の魔法訓練のため訓練場に向かうと、街長と二人の娘が来ていた。殺風景な訓練場の端に礼儀正しく控える姿は不思議な光景だ。
「お、来とるのお」
と言うと、師匠は軽く手を挙げた。
後で師匠から聞いたところによると、街長から師匠に連絡があり、僕と同じく二人に座学と魔法を教えて欲しいという依頼が来たそうだ。ちょうど、僕が街長の家を訪れた後だ。人族との接触を嫌う魔族が、まさか、師匠に頭を下げるとは驚きだ。師匠も同じだろう。
二人は緊張した面持ちで師匠に丁寧にお辞儀をする。今日が初対面なのだろう。
「ザエラ、私たち来ちゃった。これからよろしくね」
二人は僕を見て笑いながら手を振る。僕も笑い返す。
「よし、魔法訓練を始める。まじめにやるんじゃぞ」
師匠は二人に僕と同じように‟魔力の出力量の制御”、‟魔力の波長の制御”、‟魔力の吸収と体内循環”について説明を始めた。そして、鳥の魔道具を使用した訓練を始める。魔力の制御が思うようにできず、鳥が飛ばなくて早速悩んでいる。。
僕は、糸による地面、天井、壁の立体移動で体を温めた後、二人から離れたところで、ラピスと共に模擬戦闘を行う。僕の様子を街長が遠くから見ている。
◇ ◇ ◇ ◇
休憩中に僕は地面に寝そべる二人に声を掛けた。
「もう、私たちへとへとだよ。頭がぼんやりして集中できない」
二人は泣きそうな感じで、僕に訴えてくる。
「二人とも手を出して」
と僕が言うと、二人は両手を無造作に投げだす。
まずはミーシャの両手を握り、僕の魔力を彼女の魔力波長に合わせて体中に流し込む。おそらく、魔力が枯渇したため全身に倦怠感が出ているのだろう。しばらく、彼女の体内に魔力を供給し続けた。
「すっごく体の調子が良くなった。魔力が身体中に漲るわ」
ミーシャは目の輝きを取り戻し、立ち上がる。
続いてサーシャにも同じように魔力を流し込む。二人に魔力を供給しても、僕はまだ平気だ。やはり、僕の魔力量は平均以上のようだ。
「ザエラ、模擬戦闘で使用していた見慣れない魔法や戦技は自分で編み出したの?」
街長は僕に話かけてきた。
「そうだよ、アルケノイドのスキルを活用して魔法と戦技を考えたんだ」
僕は頭を掻きながら照れくさそうに答える。
「そうか、それは楽しみだ。二人とも彼を見習ってがんばりなさい」
街長は二人の娘に激を飛ばしたが、二人は微妙な表情を見せた……
◇ ◇ ◇ ◇
この日の訓練が終わると、二人は地面に仰向けになり、天井を見上げていた。
「サーシャ、私は少し後悔しているわ……あなたはどう」
「姉様と違う意見になる理由がないわ。でも、昼食を食べるまでは我慢ね」
二人は小声で何を呟いている。
街長は娘を
「ぼうずも最初は同じじゃったな」
と言いながら、師匠は嬉しそうに笑い声をあげた。
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