風船が見える (1/2)
すこし前までみんなには見えていると思っていました
でもじつはだれにも見えていない風船がぼくには見えていたんです
ただの風船ではないんです
ぼくにはなぜかその風船が見えるんです
朝起きて「いい天気だな」と思うと
どこからともなくきれいな赤い風船があらわれて飛んでいきます
おかあさんがぼくに「おはよう」というと
きれいな黄色い風船があらわれて飛んでいきます
おかあさんに「おはよう」の挨拶をしないでいると
灰色の風船があらわれます
すこし遅れて「おはよう」というと
小さな青い風船があらわれます
学校に向かう途中
駅の改札でたくさんの人混みにもまれていると
黒い風船がいくつも人混みの上をぷかぷか浮かんでいます
満員電車の中はいつも灰色の風船が
ただよっています
電車のなかでだれかがお年寄りに
席をゆずってあげると
ものすごい勢いで色とりどりの風船が出てきて
電車のなかがいっぱいになり
息ができなくなるくらいになります
電車がとまりドアが開くと溢れんばかりの風船と一緒に
ぼくは電車の外に押し出されます
空に飛んでいく一面の風船を見とれていると
電車の中に戻れずに発車してしまうことがよくあります
学校でぼくが友達に「おはよう」というと
きれいな風船が出てきます
いつもいじめられているミイ君の近くを通るとき
見て見ぬふりをして
「おはよう」を言わずにいると
黒い風船がいっぱい出てきます
教室で誰かがミイ君をいじめていると
どす黒い風船がすさまじい勢いでうまれてきて
教室の中を埋め尽くし
ぼくは廊下に押し出され
それでもどんどんうまれてきて
ぼくは風船に廊下をずうっと真っ直ぐ押され
しまいには校庭に出されてしまいます
黒い風船がドアからつぎつぎに出てきて
ぼくはなかなか教室にもどれません
ようやく風船出るのが治まって教室にもどると
先生にものすごい剣幕で怒られます
そのとき出て来る風船は
なぜかとってもきれいなものが多いです
ぼくは毎日学校の教室に行くのがすごく嫌です
教室にはいつも黒い風船がぷかぷか浮かんでいます
そして毎日かならず1回は校庭まで押し出されてしまいます
教室のみんなには風船が見えないのが本当に不思議です
毎日夜、明日学校に行くことを思うととっても憂鬱で
ぼくは全然眠れません
全然眠れなくて朝いつも寝坊をしてしまいます
おかあさんに学校を変わりたいって言ったけど
無視されてしまいました
ぼくは毎晩ふとんの中で真っ暗闇を見つめていました
ある日いつものように電車に乗って学校に行きました
いつものような満員電車
いつものように灰色の風船がぷかぷか浮かんでいました
ぼくは暗い気持ちで電車に座っていると
おなかの大きな女の人が電車に乗ってきてぼくの目の前に立ちました
ぼくは勇気を振り絞って「どうぞ」と席を立ちました
するときれいな赤い風船が出てきました
その赤い風船は灰色の風船とぶつかるとふたつの風船は破裂しました
みるみるうちに灰色の風船が破裂して
気が付くと電車の中は赤色の風船がぷかぷか浮かんでいました
女の人は「いいのよ」と遠慮していたので
ぼくは思わず目的の駅に着いたふりをして電車から飛びおりました
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