夕陽の真ん中に向かって

 

夢のなかだったのかもしれません

 

夏と秋のあいだの頃でした

ぼくはおおきな夕陽に向かって走っていました

それはそれはとってもおおきな真っ赤でした

 

そこにおかあさんとおばあさんがいました

一面に夏草の生えた草原を走っていました

たくさんのトンボが飛んでいました

 

夕陽の中でおかあさんとおばあさんがぼくに微笑んでいる気がしました

早くたどり着きたくてがんばって走りました

なんども転んでひざとひじをすりむいてしまいました

でもちっとも痛くありませんでした


いっぱい走ってぼくは夕陽に包まれました

もう夕陽にたどり着いたと思いました

でもおかあさんとおばあさんは見当たりません

夕陽の真ん中にいるんだと思いました

ぼくはもっと走りました

 

少し影がさしたと思い空を見上げると黒い一筋の線が見えました

ぼくはもっと走って体があったかくなってきました

空を見上げると黒い筋がだんだん太くなってきました

ぼくは気になって上を向きながら走っていました

黒い筋が少しずつ降りてきていると思いました

息をころしながら耳をすますと音が聞こえてきました


 ジージージー ジージージー 


シャッターが降りている音のようでした

 

ぼくは真っ赤な光のなかを夕陽の中心に向かって走りました

一瞬だけおかあさんとおばあさんがはっきり見えました


シャッターの黒い影が夕陽の上にかかりました

ぼくは早く夕陽の中心にたどり着かなければと思いました

さもないと黒いシャッターが前を塞いでしまう気がしました

ぼくは急いで走りました

 

黒いシャッターは夕陽の上の方を隠してしまいました

ぼくは光に包まれていました


黒い影は夕陽の半分を隠しました

早く急がなきゃいけないと思いました

 

 ジージージー ジージージー

 

はっきりシャッターの音が聞こえました

その動きが速くなっていました

ぼくは力をふりしぼって走りました  

いつのまにか空は真っ黒になっていました

シャッターはぼくの背の高さよりも低いところにありました

 

 塞がれちゃう

 

もうすぐそこがシャッターでした

夕陽の光はひざの高さになっていました

細い光が一本の線になっていました


かがんでぼくを見ているおかあさんとおばあさんがそこにいました


シャッターにぶつかるとガシャンとおおきな音がしました

ぼくはシャッターを引き上げようとしました

それは無限の長さのシャッターでした

ぼくの指なんか切れてしまってもいいと思いました  


この向こう側におかあさんとおばあさんがいる


ぼくの思いを無視してシャッターは落ちました

周りは全くの暗闇になりました

頬に金属の冷たさを感じました

ぼくの指はどうなったか分かりませんでした

指が着いているのかも分かりませんでした

ぼくはシャッターを思い切り何度もたたきました  

耳に激しくささる音も気になりません

ぼくの手が壊れてしまっていたのかもしれません

でもそのシャッターはびくともしませんでした

手を止めてシャッターの向こうの音を聞きました

 

でも何も聞こえませんでした

 

 

 

 

 

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