第9話 トロール族・魔族捕獲
――サテラ一行が到着する数十分前。
瘴気の蔓延するトロール族の村。そこに魔族が1人、魔物を率いて現れた。
「ふしししし。今回はトロールどもかぁ。ここらは空気がいいんだよなぁ。やるかぁ。愚劣なトロール共に魔王様の祝福があらんことを!」
王国デステンブルクを襲った魔物よりさらに一回り強い魔物の群れが一気にトロールの村へ雪崩れ込む!
「
「
魔王軍の急襲に、トロールの村は蜂の巣をつついたような騒ぎだった。
トロール……身長は三メートルにもなり、洋梨体型の歪な体つき、体に対する腕の比率が異常なほど長い灰のような色をした亜人だ。
瘴気の影響と魔族の支配でより一層凶暴化した魔物たちが押し寄せる。トロールたちはその巨大な体と長いリーチを活かし、粗雑に腕を振り回す。乱暴に振るわれた腕は、瘴気を掻き乱し、魔物の数を諸共せず一撃で数匹屠る。
「はぁ、馬鹿の一つ覚えのように乱雑に振り回すだけの能無しトロールがぁ。力が強いだけに人間より厄介だなぁ。ふししししし。何匹か殺せとの命だぁ。
言って、王国を襲ったとき者と同じ魔族は自ら魔物の行軍に合わせトロールの里へと入っていく。そして腕を振り回す1人のトロールの前に立った。
「
乱雑に、今までのように、魔物もろとも叩き潰す気で長腕を振るう! しかしその重く鋭い一撃はその魔族に当たることはなく、空を切った。地面に当たるやいなやヘドロ色の硬い地面に亀裂が走る!
「ふしししし。相変わらずなに言ってるかぁわからんなぁ。しかしぃ、瘴気の大地にヒビを入れるとはなぁ。相変わらずとんでもないパワーだぁ。それも当たらなければ意味ないんだけどなぁ」
その魔族は下劣な笑みを浮かべてトロールの背後に立っていた。真顔で消えた魔族を探してしきりに見渡すトロールへと向き直す。
「まぁ、当たったところで俺には意味無いなんだけどな。シネ」
人格が変わったように口調もトーンも下がり、黒紫のオーラ腕に纏い横に一閃した! 急に魔族が消えたことに戸惑っていたトロールの体に横線が入る。空間ごと切り裂かれたかのようにも見えるその斬撃に近い攻撃は、トロールの頑丈な体を真っ二つに切り裂いた!
どろっと血が溢れ、蒸気のような煙とともに地面へと滴り落ちる。
「ふしししし。どうだぁこのとおぉり。あと3匹ほどかっておくかぁなぁ」
「
「エソロク!!」
「エソロク!!」
仲間が目の前でやられるのをみたトロール3人が魔族の元へ突っ込んだ。
「なにを言ってるのかわからないんだよぉなぁ。お望みとあらば殺してやるよ。シネ」
またしてもゆらりとオーラを纏う。そして腕を奮おうとしたその時!
「みなさーん! 助けにきましたよ!!」
どんよりした空気とは真逆の晴々した声をあたりに響かせ、例の少年が現れた! 里についたと同時に偶然魔族を捕捉した少年は、例のピンク髪の女神に言われたことを思い出す。
『魔族は絶対に殺して』
「
「
「またここでも人に嫌がらせをしてたんですね! 今回は見逃せませんよ!」
言って、思い切り腕を引いた少年は、また何かを思い出したかのような表情をする。
「あれぇ、思ってたより早くきたなぁ魔王様の話だとあと二日はかかるはずだったんだがぁまぁいいかぁ……ヘブシっ!!」
とんでもない速さで走ってきたその少年は勢いそのままに、余裕綽々に振り返ろうとした魔族につっこんだ! 人間よりも遥かに強いトロールの攻撃を受けても平気なほど、自分の頑丈さには自身のあったその魔族は激しく動揺する!
しかし、反撃叶わず魔族はその一撃で気を失った。
「サテラさんに情報聞きだすから捕縛しておいてって言われたんだった。危ない危ない……し、死んでないですよね……?」
魔族が意識を失ったことで、里を襲撃していた魔物は魔族の支配が解け、一目散に逃げ出した。その喧騒の中で少年は吹き飛んだ魔族に駆け寄り、心配そうに魔族を観察する。
「起きて逃げられちゃうと困るし、地面に埋めておこう」
三メートルある体をヒョイともあげ、垂直に伸ばしたあと地面に突き刺した! 硬い地面に、さらに硬い魔族。それがさくっと首まで垂直にうまる。
「これでよし」
一仕事終えたと汗を拭う様子を見せる少年。
傍観していたトロールたちはなにがなんだか分からないと言った様子を見せていた。しかし、魔族が倒され魔物が村から撤退したという事実を確認すると一気に舞い上がり、魔族に襲い掛かろうとしていた三人は少年に駆け寄り、担ぎ上げる。
「わわわ! みなさん!?」
「
「
「なんて言ってるんですか!?」
その最中、ポニーテールの美少女が髪を揺らしながら駆けつけた。魔物が暴れていると思っていたその美少女は、魔物が逃げ戸惑っている状況、そしてユリムが胴上げされている状況を見て表情に乏しいながらも動揺を見せる。
「…………ユリム?」
「あぁ!! サテラさん! ちょうどよかった! この方々はなんと言ってるんですか?! あとおろして欲しいです!」
「……わからない」
「ええ?!」
言葉も通じないままもみくちゃにされること三十分。ようやく桃髪の女神が登場した。肩でゼェゼェ息をして、髪の毛はボサボサになりもはやその様相は女神には見えない。
あぁ、人間についていくだけで超辛い! 女神なのにこんなことってある!?
「ぜぇ…ぜぇ…ぜぇ…。なによこの状況……なにがあったの!? ヴァルト! ……はぁはぁ……状況説明して!」
「……きたらこうなってた。魔物ももういない」
きたらこうなってた?! まぁ確かに途中から魔物が逃げていくのが見えたけど!
「はぁ…はぁ…なによ……トロールって思ったよりも強いじゃないの……瘴気で魔物が強くなるって聞いてたから焦ってきたのに……ところで魔族はどこ!?」
息も整ってきたところで乱れた髪を手櫛で整え、状況を整理する。
ええと、トロールの里が魔物に襲われているのを感じたから急いでここにきたのよね。そしたら魔物が散り散りになっているのが見えて、きてみたら魔物も一匹もいないどころか先に来たヴァルトも立ち竦んでた。
「………て、ユリムくん?! なにやってんのあの子!」
息も戻り視界が開けたところであたりを見渡すとトロールが集まっている中心でユリムくんが抱えられているのを見つけた。
「ああ! サテラさん! よかった! この方達なに言ってるんですか!?」
「ええと、取り、とりあえずどうしてこうなったのか教えて欲しいものだけど……わかったわ! あのみなさん? その少年を下ろしていただけますか」
「
「
私の姿を見るや否やトロールたちは私の前に跪いた。
ええ……ここまでされなくてもいいんだけど。
その中から頭をポリポリかきながらユリムくんが出てきた。
「あ、ありがとうございます。助かりました」
「………ユリム」
例の如く抱きつこうとする彼女の前にすかさず体を入れる!
「………チッ」
「ユリムくん、とりあえずなにがあったのか教えてくれないかしら? ヴァルト、あんたはトロール族の族長と同盟の件を話してきなさい」
「はい。まず僕がここにきた時に、王国にいた魔族がいたので、倒した後にトロールのみなさんが僕を抱え上げて、しばらくするとアテウさんが現れて、その後サテラさんが、」
……ざっくりしすぎててわかんない!
「って! 魔族を倒した!? 本当なの?!」
「はい! サテラさんが情報収集したいと言ってたので、あそこに埋めておきました」
か、軽々しく言ってくれるわね……! 本当はもっと先のことだと思って先に言っておいたのに、もう早速やっちゃうなんて!
喜び半分意気揚々にユリムくんが指差す方をみる。そして気づいた。
……ん?
「うめた?! ほ……本当だ……」
「多分生きてはいると思うんですけど……」
多分って……まぁいいけど。
「じゃ、じゃあ……私は情報収集するからユリムくんはヴァルトが交渉が終わった頃だろうし、そっちに行って歓迎でも受けてて、不本意だけど!」
「……私はトロールの言葉話せない」
「え、まだいたの?」
ヴァルトが懐から紙の束を取り出した。
「なんじゃそりゃ」
「……これに魔法で絵を投写して説明するつもりだった」
なにその近代的なのに原始的な発想!!
そう言えば、トロールは知能が圧倒的に低いから神が与えた高度な言語が使えなかったのよね。住んでるところも住んでるところだから他種族との交流もほとんどない。交流がないから言語を理解できる人間がいなくても当然よね。
「て言うか、ネフマトはどうやってここに軍を送るつもりでいたのよ? 人間は長い時間瘴気に晒されると死ぬわよね?」
「……薬品と回復魔法でゴリ押し」
脳筋! いかにも考えそうだわ!
「と、とにかくその絵本で説明してきなよ」
「……それより、トロール達はサテラの言葉を理解してたように見えた。代わりに伝えて欲しい」
「……えぇ……別にいいけど。いい加減呼び捨てやめなさい!」
口をこぼしながらも魔王討伐の手助けは女神の仕事なのでトロールの族長宅へと行き、手短に今回ここへきた目的について説明した。
魔王については大体理解しているようで、トロール達も随分前から襲われていたようだ。二つ返事で同盟は成立した。
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