第8話 出発
――王国デステンブルク会議室。
各軍曹と竜人族の代表ディアリが集まり巨大な円台に地図を広げ
この【サルステラ】は横に大きな山脈が走り、大陸が綺麗に二等分している。
北半大陸西部の山岳地帯には【巨人族】【ミノタウロス族】【オーガ族】が住んでおり、
中央の森林地帯には【エルフ族】【ゴブリン族】【オーク族】【アラクネ族】が住み、
東部には大陸の角を隔離するようにして一万メートル級の山々が並んでいる。
その一万メートル級の山の麓には【ハーピー族】が住んでいる。
南半大陸西部の草原地帯には【人間族】【リザードマン族】【竜人族】【ケンタウロス族】。
中央の不毛地帯には【トロール族】【ナーガ族】。
東部の濃霧地帯には【ヴァンパイア族】【ドワーフ族】【妖精族】が住んでいる。
「ディアリ、【竜人族】には北半大陸西部の山岳地帯に住む【巨人族】【ミノタウロス族】【オーガ族】そして竜人族の里の近くの【ケンタウロス族】への交渉を頼みたい」
「ガハハハ、ディアリも大忙しだのう! すっ飛んできてまたすぐにとんぼ返りときた!」
「文句を言うつもりはない。俺たち竜人族の里の方が近いからな。確かに大変だが引き受けよう」
「任せたぞ」
「問題ない同盟を結び次第連絡を入れる」
「それとディアリ。可能であれば森林地帯に住む種族にも交渉の一報を入れて欲しい」
「北半大陸はこちらが引き受けよう。だが、ハーピー族は難しいぞ」
「大丈夫だ。ハーピー族についてはこちらで一考する」
「了解だ。頼まれた」
言って、ディアリは交渉へと向かうために部屋を出た。
「我々は南半大陸側の種族に交渉をする。まず初めに【魚人族】と【リザードマン族】だ」
「【リザードマン族】はワシがいこう」
「じゃあ【魚人族】は俺が行くっス」
「私達に不毛地帯の【トロール族】と【ナーガ族】の交渉を押し付けるつもりかしら? しかも近いのですから1人でいいですわ。このろくでなしども、しばきまわしますわよ」
即答するハヌマとイーアに、ケリドが声を荒げた。二人はあからさまに目を逸らす。
「落ち着けケリド。確かにあそこは人が踏み入るにははばかられるところだが、誰かがいかなければ話は進まん」
「確かにそうですが」
「……私がその二族へ行こう」
「では、東部のヴァンパイア族、妖精族、ドワーフ族はケリドに頼めるか」
「濃霧地帯ですか。不服ですがわかりましたわ」
「ハヌマとイーアは交渉が終わり次第すぐに引き返して王国の警備と前日の事後処理にあたれ。魔王は手を出さないと言っていたがもしもの時に備え、準備は万端にしておくように。解散だ」
その頃、私たちは城の外まで来ていた。
あたりを見渡せば、軍人が昨日の襲撃の事後処理をしているのが目に入る。
ここに魔王を倒すためのレイヴァスファダン(聖滅魔神力剣)がないということなので私はやらなければいけないことが増えてしまった。
最初は予想外の出来事にうろたえていた私だったが、もう流石に魔王が現れたのでこれ以上驚くこともないだろう。
レイヴァスファダン作りの手順は予め記憶の間で予習してきたので――
すっ飛ばしていくわ!!
「さ! 聖剣を作るためにまずは材料を集めにいくわよ!」
「は、はい!」
記憶の食い違いが激しかったので、開いた時間に情報の確認も兼ねて王に様々なことを聞いておいた。結果、私の記憶のほとんどが間違っていることがわかった。だが、ティアナが言っていたように間違っていると言うよりは古いと言う方が正しいかもしれない。
唯一、この世界の地理と各種族の生息分布が私の記憶と一致していた。
「材料は三つ必要なんだけど、まずは【オリハルコン】を探しにいきましょうか」
オリハルコン……ほぼ全ての世界で最硬度を誇る魔を寄せ付けない聖なる鉱物だ。それが中央山脈のどこかに眠っているらしいが、詳しい場所はわからなかったのでしばらく探すことになる。
立ち止まっている暇はないので早速出発しようとしたその時。
「……ユリム、どこいくの?」
「あ、アテウさんこんにちは。僕たちはこれから聖剣の材料を集めにいく予定です。アテウさんはこれからどこかいかれるんですか?」
最悪だ!! あの女がきてしまった!
ゆっくりと歩み寄ってきたヴァルトアテウがユリムくんの腕に寄り添おうとしたため、間に割って入る。ヴァルトアテウは鬱陶しそうな顔をして私を睨んだ。
「………チ。」
「どさくさに紛れてくっつこうとしてんじゃないわよ!」
「……私はこれから【トロール族】と【ナーガ族】に交渉にいく予定」
女 神 を 無 視 !
「あぁ、同盟の件ですね! ご苦労様です」
「……だからユリムも一緒に」
「私たちは別の用事があるから無理よ。って、あんた不毛地帯にいくの? 人間にはあそこの瘴気は毒だと思うけど」
不毛地帯は名の通り草木も生えない薄気味悪い地域。理由は簡単。あたり一帯に充満している瘴気が全てを枯らしてしまうからだ。
「……私くらい魔耐性が高ければ問題ない。だが、私の軍は私ほど強くないから連れていくことはできない」
まさか1人で行く気なの……? 確かにこの子は推定でランクC程度、軍曹の中でも一際高かった。他の人間と比べれば圧倒的な強さだと思うけど、それでも前にここを襲ったような魔王軍に襲われれば……
「大丈夫なの? 魔王は確かにこちらから仕掛けるまで手出ししないとは言ってたけど、それがどこまで本当かわからないのよ? いくらあなたが強いと言っても襲われでもすれば確実に死ぬわ」
「……そう、だからユリムも一緒に。ユリムがいれば魔王軍がきても大丈夫」
「………なるほど、んー。確かに道理は通ってるわね」
この子がこれを知っているかどうかはわからないが、召喚された勇者には毒や病気などを無効化する【神の加護】が付与されている。勇者はその世界においての分類が【神】になるためめ神の特性を【勇者補正】とは別の形で一部受け継ぐのだ。
勇者が食当たりとか風邪とか、そんな救済に全く関係ないようなしょうもない理由で死んだら元も子もないからね。瘴気も例外ではないわ。
女神としてこの世界の住人を守ることも職務内容……義務に入る。なので断ることはできないのだけど、レイヴァスファダンは出来るだけ早く入手しておきたいわ。でも、この子が死んだら大きな損失になるだろうし……
「仕方ないわね、じゃあ……」
「女神様、勇者様、御機嫌うるわしゅう。そしてヴァルト。あなた自ら進んで受けたのはそう言う魂胆あってのことでしたのね」
後ろからケリドが半目をして現れた。
「ケリドさん、こんにちは」
「……そう。どっちみち私ほど魔力耐性がないとあそこには踏み入ることはできない」
お互いの鋭い目線に火花がとばしる。
「話がわからないんだけど……どう言うこと?」
「勇者様と行動を共にする口実を作るために
うーん、聞いても話の内容がいまいちわかんないけど、ユリムくんと行動するためにあえて自分しかいけないような危険な場所を選んだってことなのかしら?
「会議が終わった後自分の軍を呼びにいかずにそのまま外に出たと思っていれば、」
「……ケリドには関係ない」
「まあ確かにそうですわね。魔王さえ倒せれば文句ないですわ」
……全然わからんっ。
仲悪いのかしら……? でも、昨日もケリドはイーアに毒付いてたし、ケリドが毒舌なだけ? 彼女はランクDくらいね、ヴァルトと比べれば低いけど一般人よりは遥かに強いわ。
「……話はおわった? それじゃあ行きましょうか。私たちはやらなければいけないことがあるから早めに終わらせないと」
善は急げ。何事も早いに越したことはないわ。私たちは聖剣を後回しにし、ヴァルトアテウと共に不毛地帯を目指した。
四日後。
今日もまた一切魔物に会わない!! なんで?!
「……ユリム」
「はい?」
「……この女神をどうにかしてくれないか」
「え、サテラさんをですか?」
私を挟んで苦笑を浮かべるユリムくん。この四日間、隙あらばユリムくんに一方的な好意を押し付けようとする彼女を、私はことごとく阻んできた。
「いいのよ、ユリムくん。ユリムくんはこの世界を救済するために降臨した勇者なのですから、こんなアバズレを相手にする必要はないのです」
すました顔で余裕を醸し出しつつ軽くあしらう。
「……サテラ。私と旦那様の邪魔をしないで」
「女神を呼び捨て!? しかも何かってに脳内結婚してんのよ。不純異性交遊は認めないわ!」
「あはは……2人とも……」
この子、すっごい罰当たりだわ! 信仰対象にここまで悪態つけるなんて!!
驚異的な速さで移動してきたので二日ほど前から私たちは不毛地帯に入っていた。黒い煤のようなモヤがあたり一帯に充満しており、地面はヘドロのような色をしている。とても気味の悪い場所だ。
でも、おかしいわ。出発してからと言うもの、一度も魔物にあってない。この地帯は数歩歩けばなにかしらの魔物と出会うくらい魔物の出現率が高いはずなのに。私の記憶が間違っているのかしら……不安になってきたわ。
また自分の記憶が間違っているのかと思い、ヴァルトに声をかけてみる。
「ヴァルト、ここら一帯って魔物がかなりいたわよね? 出発してから一度もあってないけど」
「……うん。デステンブルグを出たあたりから思ってた。見渡せば必ず五匹くらいは日向ぼっこしている
その無駄に細かい情報はいらなかったけどやっぱり私の勘違いじゃないみたい。どう言うことなんだろう。魔王が手出ししないと言ったことと関係あるのかしら?
「ほーぷらびっと……? ってなんですか?」
「……祈るようにして日向ぼっこする人畜無害なウサギだよ」
「可愛らしいですね! 見てみたいです!」
「……じゃあ今度一緒に行こう」
「はい!」
左右から飛んでくる言葉を聞き流しながら魔物が出て来ない原因について思案して歩いていくと、先の方にうっすらと石を積み重ねたような建造物が見えてきた。
「そう。それよりそれっぽいところが見えてきたけど……この感じ、王国に行った時と一緒だわ」
私の勘はよく当たる。おそらく今回も外れることはないはずだ。
「……嘘。まだまだ遠いから見えないはず」
「女神は人間より目がいいのよ。こんなモヤ私からすればすりガラスほどの目眩しにもならないわ」
「サテラさん、もしかして魔王の軍勢が……?」
「そうね。これはもう魔王が言ったことは嘘だととったほうがいいわね……」
「急ぎましょう!! 助けないと!」
「……私も行く」
バボンッ!!(ユリムが地面を蹴る音)
バッ!!(続いてヴァルトアテウが地面を蹴る音)
いって私が止める間もなくユリムくんは人外なスピードで私が見ていた方へ走り去って行った。それに続いてヴァルトも駆け出す。残像すら残すほどの速さに呆気にとられていた私も負けじと走り出した。
しかし、文字通り神的な身体能力を持つはずの私が全然追いつかない!!
「なんでそんなに速いの!? 人間でしょうあなたたちぃぃ!? ユリムくんに関しては踏み込み音も人間が出していい音じゃなかったけど?!」
「サテラさんはゆっくりきても大丈夫ですよ! 僕が先に行って助けてきます!!」
「……サテラ。ゆっくりこい」
「んなわけには行かないわよ! あんたをユリムくんと一緒にしたらなにが起こるかわかったもんじゃないわ! 過ちを見過ごすわけには行かない!! てか呼び捨てやめい!!」
私はギアを上げ、必死に腕を振ってついていく! だが一向に距離が縮まる気配がない。それどころかユリムくんに関しては目に見えてどんどん距離が離れて行っている。
本当になんなのこの速さ!? 十分でつくところを三十分かけて歩いたのはなんだったの!? 三十分でつくところを一ヶ月かけたのはなんだったの!?
息切れ切れになりながらも私は里を守るためというよりむしろ、主にユリムくんの貞操を守るために全力で走った。いや……神の威信を守るためでもある。
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