第2話 初仕事
「やったわ!!! 初めてよ!! 初めての救済!! やったわ! サテラ、今日までよく頑張ったわ、そして今日からもっと頑張るのよ! これを成功させれば……私も晴れて上位女神の仲間入り!!」
下っ端女神にも1人一部屋割り当てられている。特に何もない質素なワンルームで、私はベットに転がり喜び余って身悶えしていた。
一通り悶えた後で早速、その世界の情報を集めるために、記憶の間へと向かう。
記憶の間とは、クラウド方式に神界の神々の記憶を保存している場所だ。
神々が見たものを映像として、リアルタイムで保存できる超ハイテク技術で、これにより、様々なところで効率化がなされている。
ただ、こんな便利なシステム、制約がないわけがない。
情報を自由に持ち出すことはできず、この
今回の救済先は【サルステラ】だ、か、ら……あった。
なるほど、やっぱり下流世界ね。魔法が使える世界で、魔族とその他の種族が争ってるんだ。で、そこに魔神が介入して人族側が押され気味になっちゃったと。
そこまで危険度はないみたい。それもそうよね、上位女神様もいきなり素人女神にそんな高難易度の世界を放り投げるほど鬼じゃないわよ。
そうとなれば早速勇者召喚してと。うーんやっぱり最初は素直でいい子がいいわよね……そして何より強くて、まぁあとはそうね、正義感の強い子を。
「召喚ってこっちから正確には選べないのよね……賭けになるわ。変な奴が来ないといいけど」
「あれ、サテラ? 今日2度目ね」
「あ、ティアナ!! 見てよ! 私世界の救済まかされちゃったのよ!」
背後から声をかけてきた同僚ティアラに、先ほど上位女神にいただいた救済依頼書を見せる。
「そうなんだ!! 一緒だね!! 実は私もなの! 見た感じ難易度はそこまで高くないみたいだけどね」
──そ、そうなんだ。そうよね、同期なんだし私が仕事もらったんだからティアナがもらっても何も不自然じゃないわ。自分だけ仕事もらえたなんて浮かれてたのが恥ずかしい。
「だとしたら、しばらく会えなくなるわね。お互い頑張りましょう! あ、勇者召喚今からするでしょ? 一緒に召喚の間に行かない?」
「会えなくなるね……うん! 一緒に行こうか!」
白い空間がただひたすらに広がる召喚の間の入り口。そこに2人できていた。中には1人しか入れないので、ティアナに先を譲った。
勇者召喚を済ませたティアナが異世界へと旅だった頃合いを見て、私も覚悟を決めて召喚の間へと入る。
召喚の間は外の世界よりもかなり時間の流れが早い。
──初めて入ったけど本当に真白……何もないわね。
私は、勇者のイメージを強く思い浮かべながら、言葉を呟いた。
──強くて、優しくて、いい子で、素直で、強くて、正義感が強くて、さらに強い子を!!
「神の名の下に、世界を救済せんとする
勇者は基本的に物分かりの良い【人間】が良いとされている。魔王を倒すための【聖剣】が人間用だからだ。なぜ【人間用】に出来ているのか、私にも他の神々も知られていない。それを知るのは【三千大千世界】を創造した主、創造神様だけだ。
やがて、白い空間に虹色の輝きを放つオーブがあふれ、手紙を片手にした
私は目を見開き、強烈に母性をくすぐる風貌をしたその少年を凝視する。
――ひょぇぇ……か、可愛い……!! なんなのこの可愛さ!!
幼さを残したおそらく人間の年で十歳くらいであろう銀髪の少年。色素が薄く、はかなげで虫も殺せなさそうな顔をしているが、目鼻立ちがくっきりとし、どこかの民族衣装のような格好をしていた。
その少年に目を奪われながらも、ハッとして冷静に今後の展開について考える。
――いや、まって、こんな少年に魔王なんか倒せるかしら………。だめよ! そこをなんとかするのが女神のお仕事!! 重複召喚は恥だわ!
重複召喚とは、勇者を何度も召喚し直す行為のことで、これは女神にとっては非常に恥ずかしい行為であり、一度してしまえば以後ずっとその事について馬鹿にされ続けるらしい。
「初めまして、私は女神サテラと――」
「あなたが僕に助けを求めてきた人なんですね!」
言葉をかぶせるようにして少年が張りのある声をあげた。
――あ、え? 助け? いや確かに間違ってはいないんだけど……普通いきなりこんなところに召喚されたら色々と困惑するわよね。『召喚したらまずはしっかりと説明をしましょう』なんて記憶をさっきみたんだけど……
「は、はいそうです……」
「任せてください! ところで僕は何をすれば……?」
――んなに? この子……物わかり良すぎない……?
予想外の反応に脳内処理が間に合わず、目を白黒させた。
………はっ!! 初仕事よ!! ダメダメ。気合を入れていかないと、しっかりしなさい!
一旦目を閉じ、深く深呼吸をして気を取り戻す。
「今から私とともに異世界へといってもらいます。そこであなたに与えられる能力は【成長速度上昇】という通常の10倍のスピードで成長できる能力です。そしてあなたにはその世界を救ってもらうのです」
「……わ、わかりました」
さて、困惑の様子を見せる少年。それもそのはず、この少年は平原で人助けをすると思っていたのですから、いきなり舞台が異世界、なんて言われて当惑しないわけがありません。
正義感の人一倍強い彼は、助けを求められるととりあえず『イエス!』 と即答します。
そして、困惑と即答が混ざり合った結果が今の返事。
――あれ……なんだか歯切れの悪い返事ね? さっきまでの元気はどうしたのかしら……まぁ、大丈夫よ。女神たる私がいるんだから! しっかりエスコートしてあげないと!
「では今から行きます。最初は魔の手の及んでいない地域に降り立つので、不安にならなくて大丈夫ですよ。では、目を瞑ってください。目を開ければそこは異世界です。私がついていますので、わからないことがあったらなんでもお聞きください」
対する少年は手紙の内容との食い違いに色々と困惑しながらも、目の前の神様に言われるがまま、目を閉じます。
――なんてこと、記憶の間の情報だと状況説明に1ヶ月はかかるのでそれくらいの覚悟が必要だなんて言われてたのに! ものの1分で話がとんとん拍子に進んじゃったわ。私ってばもしかしてものわかりSSSランクの勇者召喚しちゃった!?
と、幸先のいいスタートに、サテラは心のなかでガッツポーズをしほくそ笑むのでした。
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