根は良い人なんだよね。

 で、どのルートで行くか。


 紀伊半島を山の中横断すれば距離は近いけどたぶん無理。

 とてもじゃ無いけど山が越えられず遭難しそう。


 琵琶湖のほとりを通り関ヶ原を抜け大垣桑名津のルート。

 これが現実的なんだけど、冬の関ヶ原はきつい。

 こちらも今から抜けるのは結構辛い、かな。


 じゃぁ。


 堺に出て泉佐野、和歌山廻って熊野から入るルート。

 この時期ならこちらか。

 沿岸部をゆっくり行くルートだから最悪食料はなんとかなりそう。

 途中絹と交換で食べ物手に入れたり泊まるとこ借りたりもし易いかな。

 牛車を使うにもある程度はちゃんとした道があるこちらのルートがいいか。

 人数多くなったからやっぱり徒歩だけでは厳しい。

 とにかく行けるところまでは牛車も使おう。


 で。


 あんまり大勢でがたがた用意してたら当然屋敷の人に見つかるわけで。


 お祖母様には、


「兄様が見つかるよう願掛けにお伊勢まで行ってきます」


 と、書き置きして出て行った。


 当然虎徹も一緒だ。


 ごめんね。虎徹。




 でも。

 これが現実的な方法なのだろう。

 わたしひとりじゃ、無事たどり着けるか怪しかったし。




「ねえ、姫。泉の君のことは良かったの?」

 出発してすぐ、兄様がそう言ってきた。


「え? どうして……」


「ああ、ごめん。少納言に聞いた。っていうかあんまり姫が泣くからさ、どうしたわけか聞いたのよ。そしたら姫には好きな人が居るって言うじゃない。ほんとうごめん。入れ替わりたく無かったよね。好きな人が居るのに男に戻れだなんて、あたしそんなつもりじゃなくってさ……」


 うん……。根は良い人なんだよね。兄様。だからみんな慕ってる。わたしも嫌いにはなれなかったし。


「ごめんなさい……」


「ああ、泣かないで。ほんと困らせたいわけじゃ無かったんだってば。ねえ。ほんと……」


 わたしは牛車に揺られながら、ぼろぼろ泣いた。


 ほんとごめんなさい。わたしがわがまま言わなければ兄様も姉様に戻れたのに……。ほんと、ごめんなさい……。

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