おうどんでも作ろうかな。

 雪が降りだす時期になってからでは遅いので、と。


 わたしは身の回りのものをまとめ、ここを出ることにした。


 今回ばっかりは少納言も虎徹も頼ることは出来ない。生き倒れる事だってあり得るのだから。




 そういえば。


 もう随分曖昧になってきたわたしの前世の知識の中で、中世に転生して現代の知識で無双するっぽいお話とかがあった気がするけど、あれって現実にはけっこう厳しいんじゃないだろうか。

 お料理くらいだったら工夫できなくもないけどな、とかも思うけど、一から材料を作る知識は流石に無い。

 現代でもちゃんと知識や手に職を持った人が中世に渡れば、それは確かに活躍ができるかもしれないけど、だけどそれはそれだ。

 わたしみたいになんの能力も無かったアラサー事務員が生まれ変わったところで出来ることは知れてる。


 ただ、


 ここから伊勢に行くくらいのことは、たぶん出来る。

 お伊勢さんは何度も行った覚えがあるし、この時代でもちゃんとあるはず。

 なんなら門前でおうどんでも作って振舞ってそれで暮らしていくかな。

 それもいいな。


 黙ってこっそり出かけてしまおう、そう思ったのだけど。


「水臭いな。姫が行くならあたしも一緒に行くよ。もともとあたしは姫が喜ぶかと思ってここに来たんだ。それにどうせあたしには姫生活なんてできっこ無いしね。それなら町娘の方がましさ」

 ああ、兄様……。

「そうですよ水臭い。あたしだって姫様の行くところなら何処だってお伴しますよ。お伊勢ですか? いいですよねー。一度行ってみたかったんです」

 ああ、少納言も……。


 月明かりの下。


 わたしたち三人は、旅装束に着替えて吉野を出たのだった。

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