異世界転生、なの?
「るーりひーめー。いる?」
対屋の中央に流れる川を伝って
相変わらず男の子みたいな装束で走り回ってるらしい。身軽そうで少し羨ましいな。
もうわたしたちも十四になるし、そろそろ元服だの裳着だのと話が来る頃。どうやらおじいさまがおもうさまをせっついているらしいとは聞こえて来るけど、ほんとどうする気だろう?
「にいさま、どうなさったのですか?」
わたしは御簾の中から一応扇で顔を隠してそう答える。
いくら兄妹だとは言え、顔を見せるのははしたない。
「ああ。風が気持ちのいい季節になったからね。姫を散歩にでも誘おうと思ってさ」
そうにっこり笑って話すその姿は、もうほんとどこのやんごとなき公達かと思わんばかりの色気と眩いばかりの色香を振りまいて。
ああ、まさに今が盛りの大輪の菊のように艶やかだ。
もちろん、
まあでも、この屋敷の中ですらおもうさまより緘口令が敷かれていることもあり、また古株の女房らは軒並みお暇を出されてしまっていて、後に残る者はほとんどがにいさまを若君、わたしを姫君と信じている者ばかり。
そういう意味ではお付きのごく少数の女房だけがわたしにとってもたぶん
それこそ月の障りの時なんか知ってる女房が居ないと困るだろうに、と、そうも思う。
「外にでるのはちょっと……」
「そんな閉じ籠ってばっかり居たらダメだよ? もっと身体を動かそ? きっと気持ちがいいよ?」
でも。
この格好ではやっぱり難しい、な。
「それよりも。にいさまのところも元服元服煩くはありません?」
「ああ、殿上人っていうのも悪くは無いかもね。あたしの柄じゃ、無いかもだけどね」
そういってあははと笑う。
もう。危機感がなさすぎる。
わたしだったら、もしばれたらどうしよう、とか心配しまくりだけど、
わたしが心配してるだけ?
もう。やんなっちゃう。
しゃべるだけしゃべったら、
「じゃぁまたね」
って笑顔で帰って行った
ほんとお気楽に見えるな……。羨ましい。
前世の記憶と照らし合わせながらこの世界のことを考えて。
ある時すごく大事なことに気がついたわたし。
今のわたしと兄様の状況って、まるで昔読んだおはなしの「とりかえばや 」そっくりじゃないかって。
もしかしてここはとりかえばや の、おはなしの、そんな世界なの?
時間軸が過去なだけの、普通の平安時代に生まれ変わっただけ、じゃなくて。
もしかして、ここはおはなし世界なのだろうか?
わたしはおはなし世界っていう異世界に転生しちゃったの?
だとしたら……、ちょっとまって、それってすごくまずいよね?
どうしよう……。このままじゃ大変な事になっちゃう……。
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