源氏物語みたいな。

「やっぱりわたしは夕顔が好きだな。あの儚さ。もうほんと理想」


「あたしは若紫がいいな。叶わぬ恋より最後は源氏の妻になる若紫の方が良くない? 知的で優雅でやっぱり最高だとおもうなぁ」


 側つきの女房少納言とたわいもない源氏話で盛り上がり。


 そろそろ日がかけてきたので御簾を下ろして蔀を閉じる。


 夕食は干し鮑に鰯の煮付け。お米が食べられるのは嬉しい。蕪のあつものはひしお仕立て。ちょっとしょっぱい。


 配膳は少納言がやってくれるのでわたしはとりあえず待つだけだ。


 この世界、位の高い女性ほどあまり動かないってきまりらしい。筋肉なんかつかないよね。




 わたしが自分の性別に気がついたのはやっぱり5歳のあの時で、わんぱく小僧に見えたあの兄様にいさまが神社のお庭の草叢でしゃがんで用を足す姿を見たとき。

 それこそ他人がしゃがんでカエルのようにぺたんこになって用を足す姿を見ることなんて、前世であっても無かったかも。

 そんな前世を思い出してもいなかったわたしは、そんな兄様にいさまに驚いて。

 その夜は熱を出し、いろんな夢を見た挙句、自分の前世を思い出したのだった。


 で。


 前世の自分と今の自分に生物学的に差異がある事も。


 そして、自分がいた時間軸が、此処よりも遥か未来であったことも。




 十を四つも過ぎた今となっても、わたしは相変わらず姫のまま。

 御母様が許さないしわたしも今更男の子なんかになれない。

 っていうか男の子って何あれ?

 ん? 違うか。

 わたしが知ってる男の子って兄様にいさまくらいだし、兄様は実は体は女子の筈。

 だとしたらなんだろう、ほんと、わたしと兄様が身体取り替えられたらこんな不幸な結果になってないのにね。


 兄様は相変わらず若人の姿で馬に乗り駆け回ってる。

 本物の男の人に比べると綺麗で華奢なのに、どうしてあんなに荒々しいんだろう?

 神様が何か間違えたとしか、ほんと思えないよ。


 そして。

 こんなわたしに子供の頃からずっと一緒にいてくれた少納言。

 彼女は親戚筋でわたしより少し年上。ほんと今では居なくてはならない存在だ。

 もうじき裳着だというのにこんなわたしでは結婚も無理。将来は紫式部や清少納言みたく日記や物語を書いて過ごそう、と、同じ趣味仲間の少納言といつも盛り上がってる。

 御父様が関白左大臣となった今では、こっそり宮中に女房としてあがることも出来ないし。

 もちろん帝に見初められて中宮に、とかは最悪だ。



 こんな身体ではほんとまともに恋もできないな……。悲しい……。

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