第9話
私は毎日時間があれば誠とやりとりをしていた。夏。車に乗り込むとむっとした空気が充満している。冷房を強めて車内を冷やす。冷えるまで汗がじんわりと滲む。朝のおはようから昼ご飯を食べる時間、帰る時、寝る前のおやすみまでずっと誠とやりとりをしていた。
私は気持ちが通じ合っていると思いはじめていた。いつ、何時に連絡しても誠は必ずすぐにお返事をしてくれる。
「誠と実際に会ったら私たちの関係は変わるのかな?」
「変わらないよ。」
「本当?ラインでのやりとりのままの関係性でいられると嬉しいな。」
「そうだね。」
「そろそろ寝るね。おやすみ。また明日ね。」
「おやすみ。」
そんな何てことない話題を繰り返していた。誠の返事はいつも単調だ。でも必ず返信してくれる。そこに愛があるとわたしは思っていたし、私も誠を愛していた。
そんな話をしていると、だんだんと自分の話をするように自然となってきた。
「誠に知っておいて欲しいことがあるの。」
「なに?」
「わたしのこと。」
「うん。」
「わたしね、精神薬飲んでるんだ」
「そうなんだ」
「うん。でも薬止めたいの」
「うん、辞められるならその方がいいよ。精神薬の本、読んでみようかな」
「ありがとう。挑戦してみるね」
私は医師と相談した結果、徐々に薬を抜くことにした。
しかし、結果は失敗。自律神経が乱れていたため薬を飲まないと身体症状が出るようになっていた。
体調をすっかり崩し、精神薬の特徴でもある、飲むのを辞めたら薬の効きが悪くなるという現実に体調が戻るまで三か月の時間を要した。
そのため、仕事は一度退職することにした。三か月の間も誠はずっと連絡を取って支えてくれた。誠の存在が無ければもっと悲惨な気持ちで三か月を過ごしていただろう。
私は、さらに誠にのめり込んでいた。誠という麻薬はどんどん私を犯していく。
そのことにまだ気づいていなかった。
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