6. 星を見ていた少女を殺せ
その一.葉桜の春
桜景幼き春は幾度でも我をさいなむあの子はいない
葉桜で包んだ歌をばらまいて思い出壊して
毎年の桜を見れば泣けてくるああまた一年を生きちまったよ
立っている黒板の丈高すぎて今年も買った高いサンダル
桜敷醜く踏んですり潰すもう終わったんだよ嘆きの春は
首捻る鬼女に見えるは朱い道あの葉桜の緑はどこへ
おれたちの若かった日にいつかまた巡り会おうぜまた友達で
その二.「空が黒いよ」熱夏
夏は来ぬ旅人招く誘惑に汗拭う手の白さ哀しく
永遠のそばから来たと神は言う恋した日々は朱夏に散華す
LOVELOVELOVE好きなら黙ってそこにいろおれに構うなおれはひとりだ
ささくれたこころ鎮める薬飲む老母指さし佯狂という
予備校の夏のアトリエ師は言った空が黒いぞおまえ見えるか
「見えません」木炭持った十七のトルコ色したシャツのわたしにゃ
絵描きなら青をも黒く見てるのか脳みそふりふり振り仰ぐ空
あっ暑、熱。躯まわりの脂肪だな脳はねじれて無駄が呻いた
見えたモノすべて言葉にできるなら絵なんか描かねえ多分死ぬまで
夕方の燃える空にも響くなら空は黒いぞまだ旅立てる
その三. 金魚たちの夏
脂汗じりじり額に滲ませて和柄アロハに泳ぐ琉金
「ナツヤスミ」もう二度と無い苦いあじ箪笥の匂い矢絣のシャツ
ハレの日の浴衣に夏帯並び行く港花火を布に染め上げ
色鯉になったみたいに虎縞の猫ぬるひやりと腕を這う影
歯が痛い小さな金魚を被せてる数年分の放置プレイさ
金魚鉢見る度被ってみたくなる潜水夫かなぷくぷく沈んで
たましひを迎える日にはなんとなくむうとした闇、窓で待ちたい
待っている羊羹みたいな夜のまえ素足にふわと尾びれがそよぐ
その四. コロンビア
コロンビア垂直の夢テイクオフ!テレビのこちら娘、十三
コロンビア女神の
赤い目で扉を閉めて諦めて接吻落とし地に神降ろせ
やめちゃえを睨み倒して生きていけロマンチストのアストロガール
あの国のお金の価値も君の名もコロンと呟くもう帰れない
いつまでも惑星恒星より分けてどんな星座も数えられるよ
こだわりは娘十代天文部今もまだ星々引き摺っている
怠けるな惜しむな恨むなとどまるな今こそ殺せ星の少女を
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