第43話「緊急事態」

魔族なら誰でも知っているその名前、『ミネルヴァ』

それは、並み居る魔族達を屠った最強の人間達の呼称であり、魔族の憎むべき宿敵。


「僕らは『ミネルヴァ』だ」


そして、ユナの父は確かにそう言った。


「なっ―――――」


驟雨はしばらく呆気にとられていた。かつて母親から聞いた半ば伝説上の存在。曾祖父母達の時代のグループ。そんなレジェンドが、今目の前に立っているとは、どうしても信じられなかった。


「―――だがそうとでも思わんとこの強さは説明できんな……いや、しかし2人組だったと聞いたのだが……」


混乱の渦から抜け出せぬ驟雨。そこに更に追い打ちをかけるように、ゴリ爺が言う。


「あ、儂はミネルヴァじゃないぞ。儂は――――うっ!?」


突如、場に耳障りな高音が鳴り響いた。金属と金属をこすり合わせているような甲高い頭に響く音が一帯に広がる。


『緊急事態だ。今すぐ戻れ。10秒以内に強制転移を行う』


どこからか聞こえる男の声。何かの機器を通したようなくぐもった声で、平静を装ってはいるが、心からの焦りが透けて見えていた。


驟雨は、それを聞き、一気に頭の霧を払った。立ち上がり、3人へ向かって人差し指を向けた。3人は身を屈める。驟雨は少し笑った。


「ふん。もう俺にはそんな体力も残っていない。だが、次も同じ結果とは思わんことだ、自称ミネルヴァよ。さらばだ」


その瞬間、煙も残さずいきなり消え去る驟雨。ただそこには大穴の空いた石畳と3人が立つばかり。


「これ、直さないといけんなぁ」


ゴリ爺がぽつりとつぶやいた。


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