第42話『マザーグース』

ルシュド王国の魔族の間には、ある一つの伝説がある。親から子へ、そのまた子へ、長い間伝えられてきた古き時代の話。


「昔々、私達魔族が世界を支配していたときの話よ」


いつもその話はこのフレーズで始まる。夜、母親たちは毛布に包まった我が子に話し聞かせるのだ。


「その時の魔王様、今の魔王様のご先祖の方はね、人間とケンカをしちゃったの」


そして子どもは興味津々に話に聞き入る。どうして、と聞くかもしれない。母親は頭をなでて言う。


「人間が約束を破ったの。でも、ケンカに負けちゃった」


魔王様が人間なんかに負けるわけないよ。そう言い張る子もいる。


「人間には、二人組のとっても強い人たちがいたの。魔王様も敵わないくらいに。その人たちの名前はね………」


このあたりで母親たちは、我が子の瞼が重くなっていることに気づくのだ。


「おっと、ごめんごめん。そろそろおねむだね。じゃあ、続きは明日話そうか。おやすみ」


そう言い終わらないうちに、子どもたちは深い眠りへと落ちてゆくのだ。そうして翌日、子どもたちは知ることになる。魔族と人間のパワーバランスを逆転させた大罪人の名を。


『ミネルヴァ』


その力はあまりに強大。物理的にも魔力的にも力で勝る魔族が、何百人で挑んでも指一本触れられなかったという。二人組のうちの一人は男性で、もう一人は女性。男も女も謎が多く、何も分かっていない。雷鳴の如く現れ、疾風の如く消えていった。彼ら二人の謎は深まるばかりだ。



  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る