⑥(神罰異世界にやってきてしまった)

スグルの長い眠りを抜けると、草原であった。空の底は青くなった。舞い降りてきた小鳥が足元へ止まった。


「―――ここは…………?」


彼は未だぼやけた頭を振り、体を持ち上げた。手を握り、血流を巡らせる。


「ああ。異世界、ってとこか………」


辺りを見渡してみるが、一面に広がる草原ばかり。ところどころに低木が生えていること以外は、地平線が見えるほどに何もない空間が広がっていた。


「異世界ってより、サバンナみたいだな」


異世界とは言うものの、特に変わったところは見つけられない。いつの間にか小鳥は逃げてしまっていた。


「さて、これからどうしようか」


彼は立ち上がり、自分の持ち物を確認した。着のみ着のまま、といった服装。手には3冊の分厚い冊子。さっきは気づかなかったが、見かけの割に非常に軽い。そして、黒いジャージのポケットにはチューインガムが一つ。となれば当然食料や寝床、飲み物の確保が必要になってくる。


「最低限の持ち物は用意してくれてるんじゃないのかよ。もしかしたらハズレ世界?うーん………まだ分かんねえな。どうすればいいんだろうか」


彼はとりあえずあるき出した。今は問題ないが、これから日が暮れるにつれて気温がどうなるかは分からないし、雨が降るかもしれない。そうなってはこんな草原にいては死んでしまうだろう。まあ、この世界で日が暮れるのかは知らないが。

最低限の情報を得ようと、彼は脇に挟んだ3冊の冊子のうち、ナマコ色のものを開いた。まるで辞書のような冊子だったが、彼は生きるためだと思い読み始めた。だが……


「え、俺ナマコ以下………?」


最初だけ少し読んでみたところ、全く理解が出来ない。仕方がないので今すぐ必要なことだけは探しておくことにした。


「異世界に最初に来たときにすることはっと……」


彼がそうつぶやいた瞬間。


『ピコン!』


いきなり、大きな音が聞こえた。


「うおわ!」思わず叫んだ。「なんだ!?」


『質問を感知。まずはステータス画面の確認を行って下さい』


どこからか、声が聞こえた。彼にとって聞き覚えのある、トラウマになりそうな機械音声だった。スグルは警戒心を抱いた。


「おい!お前は何だ!どこから声だしてんだ」


彼は腰を低くして、当たりをもう一度見回した。だが、どこにもそれらしき姿は見当たらなかった。また機械音が聞こえた。


『質問の追加を確認。私はナマ標のガイドシステム。私はあなたの頭に直接語りかけておりますので、どこからというシステムにはお答え出来ません。ステータス画面を開いてください』


「このガイドブックのテレパシー音声ガイドってことか?なるほど……?。元の世界の常識で考えたらだめなのかな。え?そうか?」


スグルはなんとか状況を飲み込んだのだろう。一旦腰を地につけた。彼はとりあえずガイドを信用することに決めた。神罰をくらってしまった彼に、それ以外道はなかった。


「で、ステータス画面、だっけ?それはどうすれば開くんだ?ガイドさんよ教えてくれ」


『質問を確認。ステータスと発声すれば画面が浮かびます』


「んなアホな…」


彼は目をぱちくりとさせた。一応、といった様子で声に出す。


「ステータスっと」


突如、目の前に青い四角形が浮き出てきた。


「うおおっ!」


『それがあなたのステータスです。閉じろと言えば閉じます』


彼はしばらくその四角形を触ろうとしたが、すぐにホログラムのような物だと気づいた。書かれているのは見知らぬ文字であったが、神の言う通り読めるようになっていた。

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