第40話『名前』
「何っ!?」
驟雨は後ろを振り向いた。彼はそこにある現実を把握して、愕然とした表情を浮かべた。口から漏れ出た思いが止まらなくなったように彼はつぶやく。
「何故だ……………何故だ!!」
ゴリ爺はニヤニヤと腕を組み、ユナの父は興味なさげに、母は興味津々に、それぞれ驟雨を見ていた。ゴリ爺は言った。
「これが、力の差ってやつだ」
驟雨の胸がきゅっと締まった。心臓から砂が溢れ出すような音がした。これまで勝ち進んできた彼にとって、ここまで屈辱的な経験は初めてだった。そして、これで全て終わりだ。ひび割れた石畳が風に吹かれ、白々しく音をたてた。
魔族が村人に本気をぶつける。それすら驟雨にとってはひどく心をえぐられる話であるのに、村人に敗北することなど、彼の心身が耐えられるはずがなかった。
いきなり何千歳も年老いてしまったかのように、驟雨はガクリと地に膝をついた。
「―――――クソッ!」
驟雨は、もはやスキルを使うことができなかった。特級スキル『破壊』は文字通り全力を注いだスキル。当然体力も空っぽだ。こうなれば、魔族といえどどうしようもない。そして、敗北は死あるのみ。彼はそう教わってきた。
驟雨はせめてもの虚勢としてゴリ爺を力なく睨んだ。上位魔族の彼に膝をつかせた村人を、刺すように見ていた。
太陽が空高く登ってきた。町外れのその場所にもひりひりとした明かりが差し込む。彼らの静寂を気まずげに埋めていた。
「………貴様ら、何者だ」
驟雨は口を開いた。冥土の土産に聞いておきたかった。村人とは思えぬ強さ。そして、どう考えてもありえない『破壊』からの生還。彼には分からない。ずっと描いていた「村人」像が音をたてて崩れ去っていく。
すると、ユナの母が耐えきれなくなったかのようにぷっと吹き出した。
「うふ、うふふ、あはははは!」
「………何がおかしい」
「いえ、ごめんなさい。でも、可笑しくて。魔族なのに知らないなんて――――」
「………どういう意味だ?」
驟雨は3人の顔を見回した。体格のいい爺さん、若い女、他所から来たらしい顔の男。驟雨に見覚えのある顔はなかった。
「じゃあ、自己紹介をするわね。私はアメリア。アメリア=メロヴィング。聞いたことあるかしら?」
ユナの母、アメリアは胸を張ってそう言った。
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