第38話 『カストレクトウォーター』

「村人風情が我にそんな口をきくとはな」


驟雨は怒りを顕に右手を掲げた。何故か余裕ぶった笑みを浮かべるゴリ爺を指差し、スキルを発動した。


「我の力の片鱗によって死ね。『カストレクトウォーター』」


その瞬間、3人の頭上に直径2メートル程の水の塊が発生した。プカプカと浮遊し、さながら風船のようであった。だが、そんなかわいいものではない。すぐにその風船たちは弾け、ゴリ爺へ向かって落下してきた。ゴリ爺は腕を組んだまま、何をするでもなく眺めていた。隣の二人も、避ける気配がなかった。


「ああ、言い忘れていたが、その水に触れたら最後。命はないぞ」


驟雨が笑いながらそう言った。


そして、3人の頭上で水風船が破裂した。どうやっても避けようがない、不可避の攻撃。次の瞬間には、彼らはその水が全身に付着していた。


「ふん、他愛もない………。情報を聞く前に殺してしまった。まあいい。他の村人を捕まえるか」


A級スキル、カストレクトウォーター。水を集めて降らせるだけのスキルだが、その水は、彼の魔族としての魔力が詰まっている。普通の人間の許容量を遥かに超える力。そんなものに触れては、当然生きていけるはずがない。


―――――のだが。


彼の目の前には、頭を濡らして佇む3人の姿があった。濡れてしまった不快感を浮かべて、にわか雨にでもあったような顔をしていた。


「なぜだ……なぜ生きている!?」


驟雨は目の前の光景が信じられなかった。己の力を注いだ水。それがただの人間、それも村人に無効化されたのだから。


と、ここで彼は気づく。3人は決して水を無効化などしていないことを。


「いや違う!無効化されたのではない!貴様ら、なぜ耐えているのだ!我の魔力に、村人ごときが耐えたというのか!?」


驟雨は現実を飲み込めず、叫んだ。


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