第35話『魔王の森では』
ユナが盗賊から逃れ、一息ついている頃、魔王の森では、とある大きな決定がなされていた。
彼は知らなかった。彼の村のすぐそばに大きな脅威が近づいていることを。そして、それがあんな結末をもたらすことを……
魔王の森の最奥にそびえたつ塔の中。下っ端の魔人が階段を駆け上がっていた。その先にある一室を目指し、いつ終わるとも知れぬ長い階段を急いでいた。急に仕事を振った先輩を恨みながら、ひたすらに階段を上っていた。
下っ端とはいえ魔人の彼が息を切らすほどに険しい道。だが、階段が長い訳ではない。それだけなら、魔人の、それも魔王の部下の魔人の彼であれば、長さが10倍あっても汗一つかかないだろう。
そうではなく―――――
「ま、『魔力バリア』!」
彼の体が薄透明の黒っぽい膜で覆われた。そう、定期的にB級相当のスキル、『魔力バリア』を使用しているからだ。通常、魔人と対峙した時にしか使用しないスキルなのだが、彼には使い続けなくてはいけない理由があった。
彼は汗を拭い、独り言を言った。
「やっぱきついぜ……魔王様や幹部、その候補達が一同に会してるんだもんな。俺なんかが近づける魔力じゃねえよ」
彼の向かう部屋。そこでは、彼には及びもつかない程の魔力を持つ魔王達が会議を行っている。彼らの議論が白熱すれば、当然魔力も溢れ出す。そうなれば、彼のような下っ端は近づくことすらできない。そこで、魔力バリアの張れる彼にお声がかかったという訳だ。しかし。
「でも、やっぱ限界だ……」
彼は頭を抱え、踵を返した。届けるべきだった書類を床に放り投げ、階段を落ちるように降りていった。
全道程の8割。彼はそこでリタイアした。彼には後で知らされることだが、これは新人の恒例イベントらしく、気絶することなく8割も行けたのは数世代ぶりだ。彼が期待の新人として褒め称えられるのはまた別の話……
さて、彼が投げ捨てた書類の更に上。累乗的に濃くなる魔力の、一番濃い場所。下っ端の彼がたどり着くべきだった場所。常人なら来世まで即死するほどの魔力。それが漏れ出す扉の向こうの部屋では、今まさに会議が終わろうとしていた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます