第34話 『乗り切った……!』
「う、うるせえ!おい、やっちまうぞ!」
男の声が耳に入った。
――――どうする、俺……!!
真っ向勝負では勝てるはずがないが、偽装のスキル効果ももう切れてしまうはずだ。そうなれば、もう俺はただの村人。そうなってしまう前にこいつらをどうにかしなくてはいけない。握りしめる手に汗が浮かんだ。
――――考えろ、考えろ、考えろ。
偽装スキルでどうにかしようにも、あまり複雑な事をしてしまっては一瞬で効果が切れてしまう。しばらく持たせようと思ったら下手に動けないのだ。
――――どうすりゃいいんだよ……
俺が頭を抱えた時だった。ふと、何かの匂いを思い出した。とても懐かしい、あれは……
―――神殿の匂い?
瞬間、俺の頭に考えが浮かんだ。思わずふっと笑った。俺の頭脳も、どうやら捨てたものではないらしい。
そうと決まれば時間はない。早速始めていこう。ドキドキと高鳴る心拍が、しかし、どこか心地よかった。
「ふぅ……………仕方ない。格の違いを教えてあげよう」
俺は余裕の笑みを浮かべ、そう言った。心に垂らす冷や汗に気づかれないように。
俺がそう言うと、二人は怯んだように一歩下がった。予想通りだ。バリアを貼っているに違いない。
「無駄だってことも知らないで、ね」
聞こえるか聞こえないか分からないくらいの声で、ボソリとそうつぶやいた。出来るならば、聞こえていてくれた方がありがたかったが、どちらでも良かった。
そして、二人に今度は大きな声で語りかけた。ここで、二人に印象付けなくてはならない。あのスキルの事を。
「そういえばさ、二人とも。壊したり殺したりするスキルはありふれていても、直すスキルや、蘇生するスキルは非常に貴重だってこと、知ってるよね」
「それがなんだってんだよ!S級司祭でもない限りそんなことは出来ないなんてガキでも知ってらぁ!」低いほうが乗ってくる。
「おい!集中しろ!」それを高い方が諌めた。
―――――よし、聞いてるな。
反応はどうあれ、二人は蘇生スキルの存在を今確実に意識している。俺は一旦深呼吸をした。キラキラときらめく木々の葉が眩しかった。あと少しだ。
「うん。知ってるならそれで良い」
バリアを貼ったのであろう。盗賊が笑った。
「ふん。今更どんな攻撃してこようが効かねえぜ!さあ覚悟しろクソガキが!」
――――確かに「攻撃」は効かないだろうね。でもさ。幻惑は防げないよ。
「………可哀想に」
俺は余裕ぶってスキルを発動した。否。スキルを解除した。思いっきり光が出るように。思いっきり眩しく。そしてドラマチックに。
「リペアフィールド」
特級スキルの名前だけ、騙った。
にわかにあたり一面に光が立ち込めた。
「ぐおっ!何だぁ!」
「な………何をしやがった‼」
俺はほくそ笑んだ。
「今に分かるさ」
誤った解釈で、分かるだろうな。
そして光が晴れ、男たちの目がなれた頃。彼らの目の前には、もとと変わらぬきれいな森。破壊された森たちがそのままの姿で存在していた。
「「な………………?」」
盗賊は本格的に腰が抜けてしまったようだ。
こいつらには、破壊されきった森を俺が特級スキルで治したように見えているのだ。実際は偽装スキルを解除しただけなのに、だ。
Eランクスキルを使うだけで、S級と特級のスキルを使ったと思わせられるとはね。いやはや、実に面白い。
「格の違いは分かったか?では通らせて貰う。二度と村人を襲うなよ」
そう言うと俺は二人の間を悠々と抜けて森の中の道を進んでいった。
そうして歩くこと一分程度。足がガクガクと震えていた。俺は耐えきれず腰を落とした。
―――――あー……!助かったぁ!マジで父さん様様!
深呼吸をし、胸をなでおろした。
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