第32話 『Eランクスキルも使いよう』

「………」


盗賊二人は、驚愕に間の抜けた顔でこちらを見ていた。高い方の男のその手には、真ん中でポッキリと折れたナイフ。自身有りげにスキルで強化までしていたのだ。その驚きは相当なものだろう。


俺は地面に落ちた小石に目をやった。簡単な事だ。つまり、ナイフと同じ座標に石ころを取り出しただけに過ぎない。父さんとの実験では、この場合は俺の出した物体の硬さに関わらず、もとからあった方の物体が破損していた。いくらナイフが固くとも折れてしまう訳だ。


もちろん低い方の男のナイフは今はどうしようもない。だが、一度無効化している以上ナイフで切りかかっては来ないだろう。


―――あとは。


「今のは、俺の固有スキル『ブレイク』。あらゆる身も周りの物体を壊すことが出来る」


―――脅かすだけだ。


男たちは何も喋らない。いや、違う。喋れないのだ。あまりの衝撃に、声が出せないのだ。


俺は少し笑った。素直に面白かった。村人を馬鹿にした奴らを見返せるいい機会な気がした。


「村人のスキルなんてどうせ弱いに違いない、だっけ?残念だったな。そんな戯言は俺以外に言ってくれよ」


男たちの顔色が変わる。微かに混ざっていた怒りから、純粋な恐れに。


あと一歩だ。そう思い、追い打ちをかける。俺は、無詠唱で『偽装』を発動した。対象は、男たちの周りの空間。もう、俺はすっかり偽装を使いこなせる自信があった。


――――破壊される木々の幻影を見せろ


「サラマンダーブレス!アイスコフィン!」


俺は大声で叫ぶ。傍から見ると、滑稽な絵面だろう。静かな森の中、少年が一人大声で叫んでいるだけなのだから。


しかし。目の前の男たちにとってはそうではない。


「「あ………………?」」


彼らは、今この森が破壊されている映像を見ている。爆発音を聞いている。煙の匂いを嗅いでいる。それと俺の叫び声。当然、無関係だと思うはずがない。


彼らは、ついに腰を抜かして座り込んだ。


――――――勝った。


「どいてくれる?邪魔だからさ」


そろそろ破壊の幻影が終わった頃だろうと、俺は余裕ぶって話しかけた。


内心、胸をなでおろしたかった。


――――成功したぁ………


こんなEランクで、どうにか盗賊を撃退出来た。あとは盗賊たちがどいてくれれば解決するんだけども。俺は足を進めた。


しかし、盗賊たちは腰が抜けて立ち上がれないのか、道を塞ぐのをやめようとしない。足を止めざるをえなかった。


―――――えっと……どうしようか。


偽装の効果も永久ではない。特に、今回みたく派手なエフェクトをかけると、すぐに効果時間が切れてしまう。


――――何かないか、何か!?


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