④(神罰ノート)
「あああああああ間違えたぁ!ナマ標はこっちじゃ!それは忘れてくれぇ‼」
やっと放心状態から抜け出した神は、ひどく大きな声で叫んで、今度は彼にナマコ色の冊子を勢いよく投げてよこした。
「うおっと。こっちが用語集ですか。あ、ホントですね。なんか色々文字の意味が載ってます。じゃあ、この黒いのは……?」
彼は黒い方の冊子をじっと睨んだ。その眼と反比例するように、神はどんどん不安げな目になっていった。
「……ツノート……」
神は足元の石畳を見つめるように言った。
「え?」
「し、神罰ノートじゃ………その中には、神罰として送る異世界が載っておる……」
神は幾分かはっきりと言葉を口にした。そしてまた目を泳がせるように湖の方を向いた。
「神罰……。罰ゲーム的世界ってことすかね。ああ、選んじゃう前に気づけて良かったっす。危ない所でした」
スグルは一瞬焦ったものの、直ぐにそれを閉じて用語集を開いた。
だが、神は何かをブツブツとつぶやいていた。
「…違うんじゃ…儂は悪くない…本当に申し訳ない…これでは儂の神様査定ポイントまで…」
「いやいや、たかだか冊子を渡し間違えた位でそんな焦ることないでしょうに」
スグルが笑っていると――――
『神罰、選択時間残り3分です。超過するとランダムで世界が決定されます』
――――不意に機械音が響き渡った。
スグルは、最初なんとも思っていなかった。だが、だんだんと、その言葉が己に向けられている事を知るにつれ、彼の頭に一つの答えが導き出された。その答えは、彼に心の底から焦燥を感じさせるに十分すぎるほどであった。
「……あのー。もしかして、もしかしてなんすけど、あの黒い冊子、一回渡してしまったら強制で神罰対象に選ばされるんすかね。いや、まさかとは思いますけど、ねえ?」
一縷の望みをかけてスグルは尋ねた。だが、彼は知っていた。良くも悪くも自分の勘がよく当たる事を。
――――果たして、神はどこか焦点の合わぬ目のままで、こくりと頷いた。
『神罰選択時間残り2分です。ぜひ今このときの幸せをお楽しみ下さい。直ぐに何も考えられなくなります』
「どうするんすか!おい、なんとか言えよ!」
つい神の首元を掴み、ガクガクと揺らした。
このとき、スグルは人生で最も焦っていた。人生をかけた大勝負で負けたとき、トラックに引かれた時、そんな時ですらここまで焦ることはなかった。
「神罰ノートは例え神であろうと取り消せん。それが世界のルール」
神はまるでBotにでもなったかのような話し方で言った。そして、そのまま緊張に耐えられなくなったのか、白目を剥いて倒れてしまった。
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