第30話『馬車壊れました』

 期待と不安に心臓を高鳴らせながら、村から王都へ向かう馬車に乗って数時間。荷物もしっかり詰め、来る学校生活に向けて完璧に準備を整えた。あとは馬車に揺られているだけ。な、はずだったのだが。


俺は歩いていた。深い森の中を、荒れた獣道を頼りに進んでいた。


「なんで馬車壊れんの!?おかしいだろ!」


 つい愚痴が口から溢れた。何度目かもう分からない。重い荷物が肩に食い込む度に、あの御者への苛立ちが募る。


「申し訳ないですが、次の村まで徒歩でよろしいでしょうか、だと?それ以外にどうしようもないだろうが!」


 修理もすぐには出来ず、引き返す訳にも行かず、仕方なく歩くことになったのだ。


 ということで、俺は森の中を歩いていた。村育ちの俺にはなかなかお目にかかれない、色鮮やかな奇妙な植物。やたらと大きな鳥、虫。そして―――――本物の魔物。


「いやいやおかしいだろがいっ!」


 つい大声で叫んでしまった。ギャーギャーと鳥たちが逃げていく。背丈の高い草をかき分けかき分け、俺はかがんで反省した。


 魔物が出てきたら、今の俺では逃げる以外に方法はない。せいぜいストレージの中の石ころを投げつける位だろうか。出来るだけ慎重にいかないと……


 ――――グー……


「ほわぁ!」


 大きな音で腹が鳴った。ついでにそれにびっくりして大声が出てしまった。辺りを見渡すが、運良く魔物はいなかった。まあそんな頻繁にいる訳でもないし、気にしすぎかもしれないが。


「ああ………腹減ったな」


 朝から何も食べていないのだ。一応数日分の路銀はあるものの、こんな山の中では金などただの重い荷物でしかなかった。


 御者の話では森を抜けて次の村へ行くには丸一日かからないくらいらしいが、太陽の角度を見るに、まだ半日も経っていないだろう。


「食べ物、探すか……」


 木の実か何かを見つけられたら御の字だ。そうでなくとも、最悪ストレージの偽装スキルで雑草に肉の風味でも追加すれば腹は満たされるだろうし。


「いや、流石に今の思考はやばいな」


空腹は人を駄目にする。そう思い、ひとまず探索に走った。


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