第29話 『スキルの概要』

「えっと……。父さんの『偽装』のはずだぜ」


 俺はステータス画面を開きながら言った。ステータス画面に反射して、ひどく眩しい日の光が目に入る。俺は眉をしかめた。


 こんな日光を浴びるのはいつぶりだろうか。あれ以来、つまり父さんとの数時間に渡る実験以来、ずっとだらだらとした生活を送っていたから、外に出ることもほとんどなかった。さらに言えば父さんも忙しく、全くスキルを使っていなかったのだ。使う機会がなかった、といった方が正確かもしれない。しかし、父さんによれば、そこそこ使えるっぽいはずなのだ。俺は飽きるほど見たステータス画面の『偽装』の文字から、あの紙片を思い出した。


 数日前、俺が父さんと共に『ストレージ収納』を試していた時。父さんは疲れ切った俺に、休憩ではなく、さらさらと何かを書いた紙を渡した。


「これがユナのスキルの概要かな」


 俺は息も絶え絶えになりながら手を持ち上げ、震える指でそれを受け取った。


「はぁ……これが………俺の…………?」


 俺はその紙片を読み始めた。



《ストレージ収納》

 ・最大収納質量は木製ボタン一つ分ほど。


 ・収納した物体は身の回りの任意の場所へ出す事ができ、収納した物体に付与されているスキルを使用可能。


 ・最大収納スキル数は一種類。なお、スキルのランクや熟練度に関わらない。


 ・収納したスキルは一回使用すると消えてしまう。


 ・クールタイムは1分程度。また、疲労はかなり激し目。



 俺の目が紙の下まで行ったことを確認して、父さんは椅子に腰掛けた。


「ひとまず大雑把にはこんな感じ。じゃあ、これから細かい事を調べていくよ。いやぁ。楽しみだねぇ!」


「嘘………でしょ………」


 そうして、俺はあの日の疲れへと至ったのであった。


 俺はそんな事を思い出しながらステータス画面を睨む。日の光は、雲に隠れてかやや和らいでいた。

 うん、確かに『偽装』だ。このスキルはもはや自分のスキルのように使える自信があった。

えっと、収納されてるのは……小石か。実験で使った小石。全く役にはたたないだろう。


 俺の頷きに応えるかのように、ゴリ爺は腕を組んで頷いた。意味有りげに笑ってつぶやく。


「おお、そうか。なら大丈夫だな」


「?」何が大丈夫?俺はそう思った。


 ふと、御者の急かし声が聞こえてきた。もうそろそろ時間らしい。


「じゃあユナ、しばらくお別れだ。王立学校は楽な場所じゃあない。でも、絶対ユナのためになる場所だ。また大きくなって会おうな」


ゴリ爺が手を振り、少し下がった。父さん、母さんも手を振っている。俺は馬車へ乗り込んだ。


「行ってらっしゃい!」


 皆の声に見送られながら、俺はゆっくり村の外へと飛び出した。


「……行ってきます」


ボソリとつぶやく。窓の外へ小さく手を振ったが、誰にも気づかれていないようで、少しほっとした。

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