第28話『出発の日』

 ゴリ喫茶での騒動から3日後。つまり、ついにやってきた王立学校への出発日。俺はその記念すべき日を眩しい朝日で目を覚まし、もぞもぞと体を起こした。


 窓の外では、朝早い時間にも関わらず、燦々と照らす太陽が目に痛いほど明るく輝いている。ああ、今日はいい天気だなぁ。そういや今日が出発だなぁ。俺は布団の中から外を見てそんな事を思い―――


「今日!?」


―――――自分が何も準備していないことに気づくのだった。





「まあ、色々ありながら用意出来て良かったじゃないか。いやはや、母さんのあんな顔は久々に見たなぁ。もうずっと昔に見たっきりかもしれない」


父さんが鷹揚に笑いながら俺の頭を撫でた。普段天然系の母さんなのだが、こういうときは怒ると怖いのだ。………軽くトラウマになるほどに。


「母さん、コワイ。母さん、コワイ……」


 俺が起きてから数時間。俺、父さん、母さん、そしてゴリ爺は王都へ行ける馬車の前に立っていた。


起床後の俺の焦りっぷりと迅速な行動は言うまでもない。むしろそこから数時間で諸々の用意をしたことを褒めてほしい。……や、褒められることではないけども。


俺の心中などいざ知らず、母さんが父さんに照れ隠しのように笑いかけた。この花が咲いたような笑顔が出来る人間から、どうしてあんな表情が生み出されるのか不思議でたまらない。俺は世界7不思議認定を決定した。


「昔を思い出します……まさかあなたと結婚までするとは、人生は分かりませんね」


爽やかな風が吹く。母さんの金髪をささやかに揺らした。ゴリ爺が間に割って入る。


「そんなことを言ったら、儂が二人とこうして一緒にいるのなんて奇跡みたいなもんだな」


「ハハッ、違いないね」


父さんが笑うのを見て2人も釣られて微笑んだ。そういえば、3人には深い過去があったはずなんだよな。どうせ母さんをめぐる争いか何かだとは思うけど。


そうして、しばらく3人で雑談が行われた。しばらく会っていない旧友に対して、両親共に少しテンションが高めに見えた。


ふと、俺は気づく。


「―――あれ?これ俺の送別会だよね?」


大人だけで盛り上がっているのだが。これ一応俺の送別なんだけどなぁ……俺は少なくともあと3年は帰ってこないはずだが、明らかに大人側の緊張感が足りない。


「ま、いっか」


積もる話もあるだろう。しばらく話させておけばいい。


 やがて、無尽蔵に見えた会話の種も一段落し、大人が一通り談笑を終えた頃。


「さて、ユナ」


 ゴリ爺はやっとこさこちらを向き、退屈凌ぎに草相撲をしていた俺のバッグを指した。


「おお、やっとか。何だゴリ爺」


「王立学校に着いたら、そこに入ってるはずの学生証を門番に見せろ。それで万事大丈夫だ」


 俺は千切れた草を捨て、コクリと頷いた。ゴリ爺は満足そうにそれを見ていたが、急に何かに気づいたような顔をして言った。


「あ、そういや」


「なんだ?まだ渡すものがあんのか?」


「いや、大したことじゃない。教えて欲しいんだが、今ユナが収納してるスキルって何だ?」


 変な事を聞くなと思いながら、俺はステータス画面を確認した。

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