第21話 『ユナのこれから』

しばらく店内の談笑が空々しく響く。それを破ったのは、俺の口から漏れ出た言葉だった。


「………マジ?」


え、マジ?じゃあ俺どうすんの?


「儂はつまらん冗談は言わんぞ?大マジだ」


ゴリ爺はなぜか胸を張った。その顔は、決して冗談を言っている顔ではなかった。そして、おもむろに腕を組んだ。


俺は何も言えなかった。頭を下げてでも雇ってもらうべきだったのだろうが、俺の微かなプライドがそれを阻んでいた。


ゴリ爺は父さんの顔を見た。俺も釣られてそちらを向く。父さんは、険しい顔をしてゴリ爺と見つめ合っていた。しばらく無言の応酬が続いていた。


先にしびれを切らしたのはゴリ爺だった。


「とにかく、ユナをこの店で働かせる訳にはいかん」


これで話は終わりだと言わんばかりに目をそらし、椅子を引いて立ち上がった。店内のざわめきに紛れて、調理場に戻ろうとしていた。


その時、母さんが鋭く言い放った。


「ゴルタイアさん」


席を離れようとしていたゴリ爺は、もう一度母さんの方を向く。母さんのその顔には、明らかに焦りが混じっていた。


「分かっているの?」


「もちろん分かっているさ。悪いが、ユナはここにふさわしくない」


俺の心に鋭く棘が刺さった。ふさわしくない。この店に、俺はふさわしくない。肌がざわざわと微動した。


押し黙っていた父さんもとうとう口を開いた。


「ゴルタイア」


「何だ?」


「ユナの安全のためには、お前しかいない。それでも、だめか?」


「ああ」


「………そうか」


そのまま、皆黙ってしまった。立ち上がった中途半端な姿勢のまま、ゴリ爺は何も喋らず立っていた。他の客の歓談の声量が大きくなったような気がした。


しばらく経った頃だった。沈黙を破り、ゴリ爺が言った。


「てことで、ユナ。俺はお前を雇わない」


「…………」


俺は黙っていた。こういうとき、どう反応すればいいのかわからなかった。そして、今後どうすれば良いのかも分からなかった。


俺はゴリ爺の続く言葉を待った。大方、下手な慰めに違いない。


ゴリ爺が口を開いた。


「だからさ――――」


ゴリ爺はニヤッと笑った。


「――――王立学校に推薦しとくわ」


ふぇ?あほ面を晒した。


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